眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

神曲崩壊/山田風太郎

神曲崩壊 (朝日文庫)

神曲崩壊 (朝日文庫)

 

奇才・山田風太郎による奇想小説。

あらすじは……

私がダンテの神曲・地獄篇を読んでいた19××年2月30日正午ごろ、人類は戦争をはじめ地球が崩壊し人類は滅亡した。爆風の煽りを受けダンテの創造した地獄世界も崩壊。意識を失い暗い虚空に浮かんでいた私は、気がつくとダンテに迎えられ、ガラスの霊柩車で崩壊した地獄巡りのツアーに誘われた。馬車が行くのは6つの地獄。そこで私が目にしたのは滑稽、ワイザツ、摩訶不思議な地獄的風景。歴史上有名なあの人が...。

 

例えば、『陰茎人』などのような奇想小説集。

あるいは、『甲賀忍法帖』に代表される忍法帖シリーズ。

そのほかにも、彼の原点である推理小説

そのフィクション作品どれもに共通するのは、とにかく面白い、という一点。

文章に難しい表現は全くなくてスラスラ読めるし、文章自体のリズムもテンポがよくて緩急自在によどみなく終わりまで連れて行ってくれる。

なので、山田作品というと眼鏡堂のイメージは、読みやすくて面白くて止まらない。

それは今回取り上げる『神曲崩壊』も例外ではなく、人類が滅亡し、主人公である『私』がダンテとラスプーチンに案内されるまま地獄巡りをするという話の発端部分から、ストーリーの最後まで、とにかくページをめくる手が止まらない止まらない。

 

物語のほぼすべてを占める6つの地獄めぐりの面白さ・おかしさと言ったら!

古今東西の有名人が繰り広げるドタバタ具合は捧腹絶倒。とはいえ、そこはやはり奇才・山田風太郎。後半に行くにしたがってどんどんとしっちゃかめっちゃかになってきながらも、作品を破綻させることがない。

酔っ払い地獄もベロベロ具合が面白くて(種田山頭火VS稲垣足穂のアル中二人による殴り合いが特に面白かったです)、でも、そこに終戦直後、メチルアルコール中毒で失明し急死した小栗虫太郎が登場するところでは一抹の寂しさが漂ってきます。

そのあたりも飲酒ののちの一抹の寂しさが暗喩されている気がしました。

全部の地獄について事細かに感想を書いてもいいんでしょうが、それよりも実際に読んでもらいたいからそこは割愛。

 

んで、眼鏡堂が一番心をつかまれたのは、最後の怒りの地獄。

宇垣纏、井上成美、東郷茂徳の三人が「あの戦争は何であったのか?それを避ける術や、悲惨な結果を回避する手段はなかったのか?」ということについて怒りとともに持論をぶつけ合うさまが、とても考えさせられる場面でした。

『永遠の0』『君を忘れない』『僕は君のためにこそ死にに行く』という映画にはそういった含蓄は全くありません。

しかし、『野火』や『この世界の片隅に』『火垂るの墓』『激動の昭和史 沖縄決戦』『兵隊やくざ』シリーズ、『人間の條件』には本作にある”戦争への怒り”といったものが内包されています。

ちなみに、前者に含蓄としての”戦争への怒り”がないのは単純な理由で、”安全地帯で自らは傷つくことなく、他社を戦場に送る人間の理屈と立ち位置”で作られているからです。眼鏡堂にとって挙げた3作品は程度の低いゴミ映画であると同時に、愚劣なプロパガンダ映画。東京オリンピックとかいう国家的行事(失笑)にしっぽを振ったゲス野郎が名を連ねているのがその証左です。

なんにせよ、山田風太郎当人が列外の人間ではあったにせよ、先のあの戦争に翻弄された立場としては、一言も二言も言いたいことがあったのでしょう。

 

驚愕のラストと相まって、非常に面白くも興味深い一冊でした。以上、おわり。

 

追記 その1】

今回引用した作品群はコチラ。

陰茎人 (1954年)

陰茎人 (1954年)

 
甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 
野火 (角川文庫)

野火 (角川文庫)

 
アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

 
激動の昭和史 沖縄決戦
 
兵隊やくざ

兵隊やくざ

 
人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)

人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)