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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

エグザイル/絆

エグザイル/絆 スタンダード・エディション [DVD] 

ジョン・ウー監督から脈々と続く香港ノワール。そのゼロ年代における最高傑作が『エグザイル/絆』。

カンヌ、ベネチア、ベルリンの三大映画祭で激賞され、ハリウッドでのリメイクが決定しています。(※現在、絶賛頓挫中。理由はあとで)

 

台詞に頼ることなく、徹底的に役者の芝居、それも芝居の間合いで見せるというミニマム仕様。たった110分の映画にもかかわらず、台詞の分量は『渡る世間は鬼ばかり』の1/3か1/4。

俳優の表情や仕草、台詞のタイミングなどから、登場人物の心情は汲みとれるし、下手したら原語で字幕なしの状態でもだいたいのストーリーが分かるという非常に奇妙な映画。でも、超絶にカッコイイ。

 

この映画の監督はジョニー・トー

ジョン・ウーから脈々と続く香港ノワール(主に黒社会を舞台にしたアクション映画)の系譜。その香港ノワールの巨匠のひとりです。

そんなトー監督の美学が結集されたのが、本作『エグザイル/絆』。

尊敬する映画評論家・町山智浩さんも「ジョニー・トーの映画は必ず見る。大好きな映画監督のひとり」と言っており、個人的にホクホクです。

 

さて。

 

冒頭でハリウッドリメイクが決定したものの絶賛頓挫中と書きましたが、理由は簡単。

撮れないからです。

なぜ撮れないかというと、なんとこの映画、脚本がありません。

 現場でシチュエーションのみを俳優に伝え、自由に俳優たちに芝居させる、という常軌を逸した製作方法によって撮られました。

なお、撮影期間はわずか9カ月。

これもまた恐ろしい。

 

「脚本がなくても映画って撮れるものなの?」

という疑問もあるかと思いますが、理屈の上ではなくても大丈夫です。

演技訓練のひとつとして、俳優に対してシチュエーションを提示して自由に演技させる、というトレーニングがあります。

要は、それを映画1本分まで積み重ねたのがこの映画。

 ただ、このやり方。

  • 監督がその作品について明確なビジョンを持っていること。
  • 自分や相手のアドリブ芝居をつないでいけるだけのしっかりした演技力を俳優が持っていること。

この二つが必須となります。

 前者に関しては、映画監督は自分の作品を一番理解していなければならないので問題外としても、後者は一歩間違えると目も当てられない大参事になるので要注意。

 

前に『ビューティフルライフ』の脚本家・北川悦吏子さんの初監督作『ハルフウェイ』という作品がありました。

主演の北乃きい岡田将生に、シチュエーションだけを与えて自由に芝居させた映画でしたが、非常にきっつい仕上がりとなりました。

 演技訓練をしたことのない二人にアドリブ芝居をさせても、引き出しがないので相手が言ったことに反応するだけ。予想外の演技を引き出したなら引き出したで、相手の芝居がとれて素の状態になってしまう悪循環。

 

でも、確かな演技力を備えた俳優がそれをやると惚れ惚れするほど素晴らしい化学反応が生まれるのも事実。

本作の主要キャスト、アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ロイ・チョン、ラム・シュ、ニック・チョンたちはジョニー・トー作品の常連のうえに、共演も多い友人同士。

気心の知れた連中&経験豊富なベテラン俳優なので、演技の引き出しはパンパンだ。

 

グループのリーダーで最年長のブレイズがその外見とは裏腹に、優柔不断でまったく頼りにならない(笑)。他のメンツも同様で、女好きで食い意地の張ったファット、すぐにキレる狂犬のタイ、拳銃以外興味のないキャット、ヨメと子供LOVEのウー。

ウーの奥さんが一種ドン引きするくらいの男同士のキャッキャ感は素晴らしい。

 

作品全体を貫くマカロニウエスタン風味もGOOD。

セルジオ・レオーネを思わせる重厚な絵作りとBGM、そして『ワイルドバンチ』のようなサム・ペキンパー的美学。

 惚れ惚れするほどカッコイイ男たちの織り成すドラマは鳥肌&ため息ものだ。

 

彼らはカッコイイがどこか子どもっぽい。

女の子は成長すれば女性になれるが、男は違う。

どれだけ年齢を重ねたとしても男の子のまま。

「いつまでもコドモねえ」と呆れられるのは仕方ない。

だって、男なんてのはそういう生き物なんだから。

だからこそ、男は男同士で遊んでるとすぐに童心に返れるのだ。

 

”彼らこそ、最高だった”とのキャッチコピーは秀逸。

金や名誉よりも譲れないものがある、とばかりに死ぬと判っていての殴り込みのシーン。その場面での不敵さは、全員が全員、カッコよすぎないけどいい面構え。

見るたびに発見があって、何度も何度も見返したくなる。

ホントに大好きな映画だ。