眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

吾輩は天皇なり―熊沢天皇事件/藤巻一保

吾輩は天皇なり―熊沢天皇事件 (学研新書)

基本的に新書というのは好きではない。

その数少ない例外が、この本。

右翼的、左翼的とかそういうったイデオロギーを越えて、ひとつの読み物としてみたとき、このくらい面白いものはない。

故・種村季弘氏の著書に『詐欺師の楽園』という傑作があるが、これはまさにその日本版。しかも実話ときたもんだ!!(※『詐欺師の楽園』で取り上げられている挿話も実話です)

 

内容的には戦後最大の皇室事件『熊沢天皇事件』と熊沢天皇こと熊沢寛道の生涯を軸に、南朝正当論と現行の天皇制が内包する問題についての評伝。

スラップスティックコメディというジャンルは”ドタバタ喜劇”と訳されるけど、この本はまさにソレ。

天皇制というものに対して体を張った、というか人生まで張り倒した熊沢天皇なる人物の記録。

扱っているのが”天皇制”という極めてデリケートなものではあるけれど、とにかく面白い。

 

冒頭に記された坂口安吾による一節”天皇はホウキだ”という言葉。その言葉の示すところは今も全く変わらない。

俗に”菊ダブー”と揶揄され、天皇制や天皇ならびに皇族を語る際には否定的ニュアンスを用いることは決して許されない。

否定を有しない存在であるからこそ、そこに群がる有象無象どものなんと多いことか。それに引き替え、南朝正当論の中心にある熊沢天皇のなんと純真無垢なことか。 

学校教育やアカデミズムの場で取り上げられることは少ないが、この南朝正当論というもの自体には一定の根拠がある。ちなみに現在の天皇家北朝系統。

この辺りの齟齬が”なかったこと”にされているのは当時から変わらない。

戦後、天皇人間宣言によってこの”なかったこと”が噴出し、それによって生じた悲喜こもごも。

 

天皇家というカネの匂いを嗅ぎつけてやってくる胡散臭い連中や、それに翻弄される熊沢天皇とその家族。戦後、年月を経れば経るほどにこの滑稽さは高まっていき、今の天皇陛下のご成婚時の”ミッチーブーム”の辺りなんか最高潮。

「なぜ私たちに招待状がこないのか?」と宮内庁に直訴しようとするくだりなんかはもう笑うしかない。まあ、気持ちは判らないでもないが。

 

確かに、現状の皇室典範に関わる問題点や、天皇家の政治利用、日本国の象徴たる天皇家の独立性といった諸問題について問題提起しているけど、最終的にはなぜか密教に着地するので「え?」と呆気にとられる。

なお、この本の出版社は学習研究社。通称・学研。

ムー』と同じ出版社だったりする。

逆に納得だ。