満を持して作られた超大作映画、のはずだったのだが……。
巨額の製作費をつぎ込んだにもかかわらず、非常に貧乏臭く、驚くほどスケールが小さい。主要登場人物は押さえてあるけど、その他大勢のクルーの人数が余りにも少ない。
とくに地球の作戦司令室の人の少なさは驚愕だ。高速道路の交通センターだってもっと人がいるぞ!!
冒頭の艦隊戦もただ船が並んでいるだけで、作戦行動の展開とか、陣形とか一切なし。それぞれの船がそれぞれの判断で独自に戦ってる、ってそりゃ負けるわな。
橋爪功だったか山崎努が「戦うたびに敵は学習して強くなっていく」と嘆いてみせるが、それって普通のことなんじゃないんだろうか?お前ら作戦がなさすぎるだろう?
緊張感のない戦闘シーン、迫力のない轟沈シーン、役割分担がなされていない軍人たち。
元の『宇宙戦艦ヤマト』に特に思い入れがない分、せめてアガる艦隊戦を期待したのだが目も当てられない。
『バトルシップ』は低IQのバカ映画だったが、艦隊戦の迫力”は”あったというのに。
Battleship - Final battle - YouTube
恐らく監督も脚本家もミリタリー的な知識が皆無なんだろう。とにかく軍隊的な部分や兵器的な部分が全くダメ。元のヤマトはこれが魅力のひとつなのに。
そのうえ規律がないにも等しい軍艦描写は、使命を帯びて死地に赴くというよりは、修学旅行のバスの中みたいで愕然とする。
クルー全員がホントにフリーダムで、ほとんど階級による上下が全くないうえに部活動のように和気あいあい。全員簡単に持ち場を離れるし(それも戦闘中に)、ホントに軍隊か?と疑いたくなる。タメ口で艦長に突っかかっていったり、命令を無視して勝手な行動を取ったりしたら、銃殺だよ!!
銃器描写も、2100年代にもかかわらず、陸戦隊的な人たちが持ってるのがH&KのG36。それって最近の銃だよね。未来の話なのに。
それに人数はたったの9人しかいない。
赤穂浪士だって47人だし、『13人の刺客』だって13人だ。『七人の侍』より2人多いだけって、マズいだろ!!地球の命運がかかってんじゃないのかよ!!
ヤマト=波動砲というイメージからか、やたらと波動砲を撃ちたがるのもやめてほしい。あれは一撃必殺の最終兵器なんだって!!
とにかく、監督も脚本家も何もわかっていないまま「宇宙戦艦ヤマトってこんな感じだよね」っていうノリで作ったようにしか思えない。
東映の戦隊ものの劇場版や仮面ライダーの劇場版の方が製作費が安いにもかかわらず、完成度は明らかに上だというのも泣けてくる。キムタクがミスキャストとか、そういう次元の問題ではない。
とにかく、何もかもがかみ合っておらず、脚本もひどけりゃ演出もひどい。
で、ガッカリ来るか?というとそうではない。
むしろ、ずっと面白い。
何かとキムタクが前線に出たがるが、代理とはいえ仮にも艦長なんだからホイホイ持ち場を離れんなよ、と思いながらニヤニヤする(笑)。ガミラスがアホなのか、単にヤマトが運がいいだけなのか、これでよく沈まなかったなと思う。だって、作戦も何もないんだもん(笑)
そういう意味では「スターウォーズとか、アルマゲドンとか大好きです!!」という山崎貴監督のボンクラっぷりは素晴らしい。
VFXで不必要に味付けし、ヨメに脚本を書かせ、余計なファンサービスを盛り込み、その結果完成した作品はきちんと観客をがっかりさせてくれるというのはまさに作家性。”日本のローランド・エメリッヒ”というべき逸材だ。実に素晴らしい。
敵の造形が『スターシップ・トルーパーズ』丸パクリ酷似しているいうのも素敵だ。もちろん、向こうの迫力とか残虐さに比べれば全然ダメなんだが。
『パシフィック・リム』のギレルモ・デルトロ監督のオタクマインドに比べると、山崎監督のそれはあまりにもヌルい。スタイリッシュなのは良くて、泥臭いのは悪い、などというセンスのなさ加減もここまでくれば、個性の次元だろう。
第一、この人って”映画監督”という総合芸術の舵取り役には絶対に向いてないっぽいぞ。だって、一介のVFXスタッフだった時の方がいい仕事してたもん。
ともあれ、最大の見どころは、緊迫の戦闘シーンの中、キムタクと黒木メイサが演じる愁嘆場。大戦闘の真っ最中だったはずなのに、いきなり静かになり、そのうえ敵からの攻撃もストップ。二人の今生の別れを邪魔するような無粋な輩は、銀河の彼方にもいないのだ。
っていうか、「そんな場合じゃねーだろ」って思わずツッコんだ(笑)。
最後に、ただでさえ少ないクルーをあれだけ失っといて、よく地球に帰れたものだと感心する。技師長まで死んでるというのに。
たった37人で巨大戦艦って動かせるんだね。そっちのほうがすごいよ(笑)。
最終的には一人で動かすし(笑)。
キムタク、すげえ。
【追記】
エンディング曲はエアロスミスのボーカル、はら・たいらースティーブン・タイラーが熱唱。