読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

かがやく月の宮/宇月原晴明

 

かがやく月の宮

かがやく月の宮

 

一番好きな作家は澁澤龍彦だけど、生きている作家でいちばん好きな作家は?と訊かれたら、宇月原晴明と即答する。そのくらい大好きな、というか唯一追っかけている作家の新作。出版されてだいぶ経つが、やっと購入した。 

 

単行本としては『廃帝綺譚』以来だから、ずいぶん間が空いたなあ。

廃帝綺譚 (中公文庫)

廃帝綺譚 (中公文庫)

 

もっともその間は、新潮社のアンソロジーに寄稿していたり、別名義での評論活動もあるから当人的には何もしていなかったわけではない。

Fantasy Seller (新潮文庫)

Fantasy Seller (新潮文庫)

 

アンソロジーの内容が、蓬莱山を巡るかぐや姫の話だったので(狂言回しとなるのは平将門藤原純友)、『安徳天皇漂海記』から時代をさかのぼるのだろうとは思っていたが、まさか平安時代の王朝文学の世界にさかのぼるとは。

個人的に平安時代は苦手なので、それが二の足を踏ませたのは事実だが。

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

 

 

今回の作品のひとつのキーになっているのは、いわゆる本歌取り*1。しかも、それは平安時代の王朝文学全盛にあっての和歌の重要性を前提にしているからこそあえて用いられた本歌取り

なので、その技法を用いることそれ自体に作品構造的にも意味があるというところに「やられた!!」と思ってしまう。

宇月原作品の特徴は、日本文学にありがちな登場人物の過度な心理描写に偏らず、作品全体の構造に執着するところが最大の魅力。初期作品は意図的な装飾過多な文体が良くも悪くも好みを分けていたが、山本周五郎賞を受賞し、直木賞にもノミネートされた『安徳天皇漂海記』を機に、非常に乾いた静かな文体へと変化。徹底的に磨き抜いた文体は玄人筋にも評価が高い。

 

そうは言いながらも、トリッキーな物語構造や他作品へのオマージュ、膨大な参考文献など”一見さんお断り”なところは相変わらず。みんなに読んで欲しい、と思いながら、メジャーなベストセラー作家にはなって欲しくない、と思ってしまう(笑)。まったく、矛盾も甚だしい(笑)。

 

今回のテーマは『竹取物語』。

”今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。”という有名な出だしで始まるわけだが、物語はこの『竹取物語』を用いながら、全く予想しえない日本と唐との外交戦へと転がっていく。これまた有名な、かぐや姫からの5人の貴族たちに出される無理難題の求婚条件。その裏にある真意が明かされるくだりはほとんどサスペンス、というかまるで小栗虫太郎の探偵小説のようだ。

実際の歴史上の物語進行と、フィクションとしての物語進行の部分。

天体信仰に関する東西の奇妙な一致を解説した部分。

そしてそれらの外側で、”かがやく月の宮”という物語を紡ぐ女性の視点。

虚実が入り交じった上、物語が入れ子構造になっているので油断するとあっという間に訳が分からなくなる。

もっとも、本作はハッキリ言って分かりやすい部類に入る。

なので、考えようによっては「ちょっと読者サービスしすぎじゃね?」と思ったりもする。オマージュ元の小説についてほとんどぼかしていないのも、ちょっと意外だった。

前は”読めば分かるでしょ。分からなくてもいいけど。”くらいの突き放した感じだったのに。

 

とにかく、次の展開が全く読めないので一気に最後まで読みたくなってしまう。

もっとも苦手な時代設定だし、誰が誰だか人間関係や人名を整理するために、ちょいちょい休憩して頭の中を整理しながらだったので、思ったよりも時間がかかった。

もうちょっと平安時代についての予備知識があれば、すんなり入っていけたのかもしれない。こっち側の勉強不足だな。

とはいえ、かぐや姫の出してきた無理難題を、まさかそういう風に解釈するとは思わなかったので意外の一言。実際の歴史に沿っているので年表を見ればすぐに結末が分かるのだが、そのあたりのぼかし方もお見事だ。

毎回、宇月原作品を読むたびに抱く感想は、”よくこんな話思いつくな。”

実に幼稚極まりないが、まったくこれに尽きる。

『輝く日の宮』が紡がれるにあたって、やっとこの『かがやく月の宮』の書き手がわかるという驚愕のラスト。太陽と月っていうのがここで作中内の書き手の元につながるとは。

大切な事なのでもう一回書いておくが、”よくこんな話思いつくな。”

 

ともあれ、新刊も大当たり。

余りに楽しかったので、もう一回最初から読むことにしよう。

今回は作品構造がさほど入り組んでないし、作者のアプローチも親切なのでスラスラ読める。

妙に引き込まれる小説だ。

 

【追記】

オマージュを探す楽しみも宇月原作品の魅力。

巻末に記されている通り、今回は稲垣足穂の『黄漠奇聞』。

この本に収録されとります。なお表題作は必読の鉄板だ。

一千一秒物語 (新潮文庫)

一千一秒物語 (新潮文庫)

 

そして、『かがやく月の宮』とくれば、もちろんこれも読んでおきたい。

輝く日の宮 (講談社文庫)

輝く日の宮 (講談社文庫)

 

 

*1:歌学における和歌の作成技法の1つで、有名な古歌(本歌)の1句もしくは2句を自作に取り入れて作歌を行う方法。主に本歌を背景として用いることで奥行きを与えて表現効果の重層化を図る際に用いた。