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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間

 ジメつく夏を吹き飛ばすべく、究極にジメジメした映画をチョイス。

HORRORS OF MALFORMED MEN : 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 [DVD]

HORRORS OF MALFORMED MEN : 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 [DVD]

 

邦画における究極のワケあり映画といえば、この作品を挙げねばなるまい。

本作がどれくらいワケありかというと、

  • DVD等での発売不可
  • シネコン等での上映不可(小劇場ならギリOK)
  • 地上波での放映は絶対無理

などなど。

『食人族』同様、今じゃポスターを貼っただけで各所からこっぴどく怒られるような気さえします。

演出というか雰囲気というか、全体の隅々に至るまで常軌を逸している。

とにかく最高に狂った映画。オッパイ満載血みどろ満載なのでロジャー・コーマン御大も大喜びだ。

東映の”異常性愛路線”を代表する一本で、石井輝男監督のこの路線の作品だとオイラは『盲獣vs一寸法師』を見たことがある。

コレもかなりキてる映画だった。

(※エログロ注意)


石井輝男監督『盲獣VS一寸法師』オリジナル版予告篇 - YouTube

 

ホラーにカテゴライズしたが*1、一応はサスペンス映画であり、ミステリ映画である。

タイトルに”江戸川乱歩全集”と銘打たれてはいるものの、江戸川乱歩作品というよりは『孤島の鬼』『パノラマ島奇談』『陰獣』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』などの初期江戸川乱歩作品に顕著な”猟奇的なエログロ”を、監督である石井輝男が奔放なイメージで再構築させた映画、と言った方がいいかもしれない。言及はされていないが谷崎潤一郎『鍵』、夢野久作ドグラ・マグラ』『瓶詰の地獄』、沼正三家畜人ヤプー』などからの影響も強く感じる。 

しかしながら、ミステリ仕立てのストーリーよりもまず全体の異常さ加減が突き抜けているもんだから推理どころの騒ぎではない。

公開当時はさして話題にならなかったそうだが*2、ある意味当然の結果だろう。確かに成人指定に相応しいエロもあるにはあるが、病的というか猟奇的というかグロテスクなエロさ。

これはペントハウスの社長ボブ・グッチョーネがメガホンを取った『カリギュラ』が雰囲気的に近いような気がする。


Caligula Trailer - YouTube

 

とにかくこの映画、演出が異様であり異常の一言に尽きる。

弟子であった春日太一さんによると、なんでも石井輝男監督は超ドSで弟子やスタッフ、役者を徹底的に追い込むのだそう。


時代劇研究家【春日太一その筋の話】 - YouTube

俳優を追い込む監督といえばウィリアム・フリードキン監督*3が即座に思い浮かぶ。なるほど、俳優やスタッフをボロボロになるまでコキ使って1級品の映画を作り上げるところなんかは全く一緒。

そういう監督なので、”異常性愛路線”は水が合ったのだろう。この69年に石井監督が手がけた”異常性愛路線”は6本にも上る。前作の『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』が8月の末に公開で、本作の公開は10月の末。

仁義なき戦い』は3カ月で撮り終えたが、こちらはほとんど2カ月程度で撮ったことになる。恐ろしいまでの早撮りだ。石川県でロケをしているというのに……。

 

その異常性をさらに際立たせるのは、やはり土方巽の存在だろう。

暗黒舞踏の創始者である”あの”土方巽がスクリーンに登場する、というだけでもはや普通の映画ではない。しかも土方のビジュアルが邪悪なキリストみたいなのだ。加えて、彼の主催する暗黒舞踏塾の面々がエキストラとして参加し奇形人間を演じるとくればありきたりの映画にする方が難しいだろう。

とにかく、ストーリーをねじ伏せ、乖離させるような土方巽の存在感は凄まじい。

いわゆる俳優的な演技ではないし、キツイ秋田訛りによる妙なイントネーションの台詞は発声もモゴモゴしていて聞き取りにくい。1から10まですべてがすべて、異様&異常極まりない。だがそれが役柄を越えて衝撃的な存在感としてビシビシ伝わってくる。

悪徳や禁忌を目の前にさらけ出すことによって人間の本質をえぐり出す、などという高尚なテーマは多分ないだろうが、エクストリーム映画に相応しい社会的表現の限界を突破しようという強烈な意気込みがそこにある。

 

とかく最近、無菌状態に抗菌されたキレイな映画ばっかりだ。

エロもグロも暴力もすっぱり排除して、キレイキレイなお花畑みたいな映画ばっかり。年齢制限のレイティングがあるにもかかわらず、エロもグロも暴力も排除。かなり息苦しい世の中になってきている。誤解ないように書いておくけれど、なにもエログロ&暴力的な作品を完全にオープンにして子供の手の届くところに置いておけ、と言っているのではない。当たり前のことだ。だが、年齢制限を設けるのならオトナをお子ちゃま扱いはしないでほしい。

世の中が悪い方向へ進んでいることを実感するのは、業界内でどれくらい自主規制が行われているか、ということだ。自主規制が悪いとは言わないが、あれもこれもと先手を打った自主規制が進めば進むほど、表現活動が先細るし、何より発現することそのものが規制・抑制される。自分が神様であると思っているお客様を相手に、「これはやめておこう」「やらないほうがいいに違いない」と余計な気を回しすぎると、最終的には何もできなくなる。

そういう意味ではこの映画の常軌を逸した(正気を失った)表現は、裏を返せば、それだけの表現活動が許された時代だった、とも言える。これを大らかな時代だったととるか、野蛮な時代だったととるかは人によって違うだろうが。

確かに今現在の視点で見ると許されない表現があるのも事実だ。

しかし、それがなぜ許されないのか?ということを理解したうえで、この映画が広く日の目を見る世の中になればいいと思う。

奇形人間という言葉が文字通りの身体的精神的障害を表すものではなく、人間の精神に本来的等しくに備わった歪つな異常性、という風に考えれば、生きるための教訓にも見える。

有名なのはこの文言。

”怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。*4

自分の心の中にある歪さと向き合うことによって、奇形人間という怪物に変身しないで済む。そんな風に考えれば、この映画が大手を振って見れないのは、放送禁止用語が~とか、表現が~、とかいうよりも深刻な問題なのかもしれない。

でもそんなことはともかく、単純に超面白い。

脳味噌を直接ガンガンと刺激してくる凄まじい作品。海外版を逆輸入するとか、幻視する(byライムスター宇多丸)とかしてぜひぜひ見てほしい。

 

【追記】

作品全体のトーンはこの作品の影響下にある。

何を考えているのか、毎年角川のナツイチ!に名を連ねる不朽の名作。

”読むと発狂する小説”という秀逸な伝説は誰もが知るところだ。

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

 
ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

 

 

*1:海外版DVDのカテゴリーがそうなっている

*2:成人指定の映画として公開された

*3:代表作は『エクソシスト』『フレンチコネクション』など。71年にアカデミー監督賞を受賞

*4:ニーチェ『善悪の彼岸』146節