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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

吸血鬼幻想/種村季弘

吸血鬼幻想 (河出文庫 126A)

吸血鬼幻想 (河出文庫 126A)

 

一時期、吸血鬼モノにハマっていたことがある。学生時代のことだ。

切っ掛けは多分、ブラピ&トムのホモホモしいBL映画耽美的吸血鬼映画『インタビュー・ウィズ・バンパイア』。

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア [DVD]

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あの映画にやられてしまい、吸血鬼モノを買いあさることになる。……と言いつつ、買ったのは”本”だけ。DVDとかそういう映画は一切なかった。おそらく吸血鬼の呪いだろう。

 

今ではその大半を処分してしまったが(手違い&勢いでブラム・ストーカーの『ドラキュラ』やキム・ニューマンの『ドラキュラ3部作』まで手放してしまったのは痛恨のミスだ)、それでも未だに吸血鬼モノには興味がある。

そんな中で、手元に残しておいた数少ない本のひとつ。

この本と、今は無き幻想文学の別冊『ドラキュラ文学館』はちょっとした宝物。(幻想文学もコレクションしていたのだが勢いで処分してしまった。今考えるとなんてバカなことをしたんだろう)時々、無性に読みたくなる。

これは非常に読みやすくて、吸血鬼についての歴史的背景などが体系的に整理してあって非常に良い本だ。

 

この本を読むきっかけは、とても単純な理由から。

日夏耿之介という偉大な詩人がいて、彼が訳した『吸血妖魅考』という作品がある。

吸血妖魅考 (ちくま学芸文庫)

吸血妖魅考 (ちくま学芸文庫)

 

日夏文学に触れたことのある人なら分かると思うが、旧かな旧漢字で敷き詰められた荘厳な文体は実に素晴らしい。彼の手によるポーの『大鴉』は翻訳詩として究極の美的完成度にあると思う。

だが『吸血妖魅考』は、荘厳華麗な文体で文化史的なものを著しているため非常に読みにくい(笑)。書かれている内容を理解する前に、一旦、日夏文体を論説文的な日本語表現に変換する必要が出てくる。そして、この脳内作業が思いのほか面倒臭い。

 

そこで、この『吸血鬼幻想』の出番というわけだ。

『吸血妖魅考』は優れた本であるけど、ほとんど専門書にも近しいので、ぱっと手に取って楽しむ類の本ではない。じっくり腰を据えて読むべき本だ。

……まあ、大半の本はそうなんだろうけど。

 

それはともかく、『吸血鬼幻想』はとても読みがい&読みごたえのある本だ。

 

吸血鬼という存在の文化的背景を論じ、吸血鬼文学や映画における吸血鬼の存在などをからめつつ、”吸血”という行為の裏にある心理学的なメタファーを解き明かすに至る。

まあ、今となっては少々古臭いところもあるが、吸血鬼モノというジャンル自体に必要不可欠なクラシックな部分や雰囲気が非常にマッチしていて、逆に古臭い論旨ほど愛おしく感じる。この辺りのさじ加減はさすが種村先生だ。

澁澤龍彦が1章完結で作品を積み重ねていくのに対して、種村季弘は1冊トータルでテーマを語るのが得意なように思う。

例えば本作だと、

1)吸血鬼の基本概念

2)文学や映画における吸血鬼さまざま

3)歴史上の吸血鬼さまざま

4)現代表現における吸血鬼とは?

といった具合。

もともと種村季弘は編集者出身で、噂では河出書房の文芸誌『文藝』から坂本一亀*1が退く際、その後任として打診があったくらいの人物。元・筑摩書房の編集長であった松田哲夫も執筆の依頼をすると原稿だけでなく、編集や宣伝についてのアイディアも出してくる人物だったことを明かしている。

とにかく、トータルの完成度が非常に高い。

もちろんそこは文芸作品なのであくまでも読者第一。変なアカデミズムに陥らないバランス感覚もさすがとしか言いようがない。

語り口が、講談的な「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」のような熱っぽさと、独特の諧謔的なダンディズムに溢れていて、グイグイ引き込まれていく。

割に澁澤龍彦の出典に一定の傾向があるのに対して、種村先生は縦横無尽。

広くて深い。文学、哲学、芸術、映画とホントに幅広い人だ。

 

読後に抱いた感想としては、ありきたりだが「吸血鬼はフィクションに限るなあ」ということ。

ギリギリで中世ヨーロッパのエリザベート・バートリーまでは許容できるが、近代における吸血鬼(つまりは猟奇殺人犯)とかになると、途端に興ざめする。

それは吸血鬼という存在そのものにある、”高貴な感じ”が皆無だからだ。

現在においても全く衰えることのない吸血鬼モノの人気は、きっとこういうところにあるのかも知れない。 あくまでも高貴で上品で、しかし恐ろしいというアンバランス感があってこそ。

単純に血を吸うと言うだけだったらここまでにはならなかっただろう。季節が夏だからというわけではないが、だったら蚊でもいいわけで。

 

そういった雰囲気的な部分も合わせて、この吸血鬼幻想という本はイチオシだ。

なにより吸血鬼モノにハマった初心者向けには完璧すぎるほどの資料本&読み物。

 

だが、最大の欠点はこの本が現在絶版ということ。

河出書房には是非、再販を一考していただきたい。

ってか、こんだけの本を埋もれさせといて何とも思わないのかよ!!  (#`皿´)

 

古本屋等々で見つけたら即レスキュー(by三宅隆太監督)しよう。

 

【追記】

吸血鬼モノというジャンルは老若男女問わず、人気の鉄板コンテンツ。

数ある吸血鬼バンザイな人の中で、オイラは菊池秀行大先生を推しておきたい。

まったくブレることのない創作スタイルは、いついかなる時にみても輝いている。

こういう職人的な姿勢はまさに創作者の模範なのだ。

 

個人的に悲しかったのは高野真之の『Blood Alone』が売り上げを理由に打ち切りになってしまったこと。

BLOOD ALONE コミック 1-10巻セット (イブニングKC)

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作品的には2度目の掲載誌からの打ち切り。世の中諸行無常だ。

でも、作者が「同人誌での発売になるけど、ちゃんと完結させる!!」と明言したのは拍手を送りたい。あの人とかこの人に聞かせてやりたい台詞だ。

*1:戦後の名編集者のひとり。野間宏『真空地帯』や三島由紀夫仮面の告白高橋和巳『悲の器』等を手がけた。子は音楽家の坂本龍一