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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

アンヴィル~夢を諦めきれない男たち~

アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~ [DVD]

アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~ [DVD]

 

カナダ出身のスラッシュメタルバンド、アンヴィル

彼らの、どん底から念願のロックスターの座に上り詰めるまでを追ったドキュメンタリー。

 

色んな人に勧めたんだけど、どうもみんなピンとこない様子で……。

せっかくなので、メタル者らしく『アンヴィル』というバンドについて説明しながら、つらつら書いていこうと思う。

 

まず言っておきたいのが、アンヴィルは偉大なバンドだということだ。

ジャンルとしてはパワー/スラッシュメタルにカテゴライズされるのだろうが、重要なのはスラッシュメタルの始祖であるメタリカよりも先にこのバンドが存在したことだ。

加えて、アンヴィルを評価するメンツがまたスゴい。

 

ラーズ・ウルリッヒメタリカのドラム)

レミー・キルミスター(モーターヘッドのベース&ボーカル)

スコット・イアン(アンスラックスのギター)

トム・アラヤ(スレイヤーのベース&ボーカル)

スラッシュ(元ガンズ・アンド・ローゼスのギター)

 

普通、このメンツに褒められたら喜びのあまりビルから飛び降りて死んだとしても悔いはない。っていうか、モーターヘッドのレミーが他のバンドを褒めるというのはある意味衝撃的だ。

ここで重要なのはラーズが彼らを非常に高く評価しているということ。

ラーズ・ウルリッヒという男は音楽に対して非常に鋭敏な嗅覚をもっている。古今東西のロックミュージックに精通した彼に評価されたというのは、一種のお墨付きだ。

 

地元ではそこそこ人気のアンヴィルだが、”ロックスターになる!!”という野望の実現に向けてヨーロッパツアーをするのだが、これがまた……(笑)

元凶は間違いなくタチアーナとかいうマネージャー。

このオバハンが全く役に立たない。

電車の手配が出来ず、ギャラ交渉が出来ず、道に迷うし、もうボロボロ。

その上どう見てもこの当時のアンヴィルのリードギタリストとデキてる(笑)。

余りに役立たずなので怒ると、「アタシだって頑張ってるのよ!!」と逆ギレして泣く。

この役立たずをリップスはかばうのだが、どう考えてもお人よしすぎるだろ!!

どのくらい彼がお人よしすぎるかというと、ギタリストとタチアーナの結婚式の余興に、バンドとして出演するくらいのお人よし。

もうここまで来るとバカとしか言いようがない。

 

ともあれ、心を打つのは理想と現実の狭間でもがくリップスとロブ、そして彼らの家族の姿だ。

スターになりたい、という夢は誰しもが抱く夢だ。

同時に、それは最大のモチベーションでもある。

だが、それを目指したが故に散っていったミュージシャンも多い。

ジェイニー・レイン(ウォレント)、ケヴィン・ダブロウ(クワイエット・ライオット)、ロビン・クロスビー(ラット)……。

そういう意味では、解散することなく、酒やドラッグなどの誘惑にも負けず、死ぬことなく活動できているというのは奇跡に近い。でも、その奇跡すらショウビジネスの世界における人気というバロメーターの前では無価値なのだという現実。

そして夢を追ってきたが故に、もう後戻りできないところに来てしまっているというのもまた現実なのだ。理解や呆れや情熱が様々に入り交じるこの光景は、見ていてつらい。

だが、それが夢をかなえることに対して支払う代償だ。

 

劇中でクリス・タンガリーディス*1をプロデューサーに立てるシーンで、アルバム制作に必要な金額が具体的に提示されるのだが、オイラの感覚では安いと思った。

確かに200万円という金額は高い。

だが、クリスのプロデュース料と彼の所有するスタジオの使用料を込みでこの値段だったら、むしろ安い方だろう。

とにかく、崖っぷちに追い込まれた状態でのレコーディングで、彼らはぶつかり合い、ケンカし、お互いの信頼を取り戻し、再び挑戦へと向かっていく。この辺りのリップスとロブの友情を越えた関係性は、男性、というか男の子特有のものだ。

もし、女性でこんなぶつかり方をしたら間違いなくそのバンドは再起不能になるだろう。

といいつつ、こんな最中に置かれているグレン・ファイブの心情を思うとかなり込み上げてくるものがある。針のむしろっていうのはこういうのを言うんだな。

 

こうして200万を突っ込んだレコーディングだが、結果的には大失敗。

世界的にメタルが低迷している昨今、彼らのようなオールドスクールな音楽は売れないのだ。

完全に終わったかに見えたアンヴィルを救ったのが、なんと日本。

日本のロックフェスに招かれたアンヴィルは、数万人の大観衆の前で演奏を披露。大喝さいを浴び、彼らは50代にして初めて栄光のロックスターの座を掴んだのだった。

めでたしめでたし。

……なのだが、このくだりについてちょっと説明しよう。

このロックフェスは2006年に横浜アリーナで行われた『ラウドパーク06』。

確かに満員の客席から喝さいを浴びてはいるが、ここにはちょっとした事実誤認がある。

ラウドパークは、3つのステージで交互にライブが行われるのだが、アンヴィルはGigantour Stageの1番手として出演している。映画を観れば分かるが、客層はアンヴィルが全盛期だった84年には明らかに生まれていない若者たちだ。

まあ、彼らもアンヴィルについて予習はしてきているだろうが*2、目当ては彼らの次に出演するハードコア・スーパースター。要は場所取りで詰めかけているに過ぎなかったりする。

悲しいが、世の中それが現実だ。

 

ともあれ、この映画を機に、アンヴィルは一躍注目されるスターバンドになったのは紛れもない事実なんだけど。

 

さて、ココからは後日談だ。DVDには入ってないぞ。

そんなこんなで念願のロックスターになったアンヴィルだが、予期せぬ問題が発生した。

本作では言及されていないが、そもそもアンヴィルはリップスとロブの二人組バンドではない。バンドがどん底のときから加入したベーシスト、グレン・ファイブを含めたトリオバンドだ。……リードギタリストもいたが、映画のヒットで調子をコキ出したため、速攻でクビになった。

ロックスターとなった結果、バイト生活から足を洗ってミュージシャン生活できるようになり、ギターもエンドース契約できるようになった。製作したアルバムもプロデューサーは何と”あの”フレデリック・ノルドストローム*3

 

が。

その結果、リップスとロブが増長。

スター気取りの二人に嫌気がさしたのか、グレンが脱退。 表面的には音楽性の違いと言われてるけど、絶対にそうじゃないのが見え見えだ。

それは映画内での彼の扱いを見れば一目瞭然。不遇の時代を献身的に支えてきたのに、ちょっとこの映画での彼の扱いはひどすぎる。

念願のロックスターになってからの後日談『アンヴィル2~夢をかなえた男たち~』が撮られることになったら、是非ともグレンにインタビューしてほしいものだ。

 

【追記】

底辺のバンドがスターダムにのし上がるのが本作なら、崩壊寸前に陥ったスターバンドが再生をめざしてもがくドキュメンタリーが、『メタリカ 真実の瞬間』。

メタリカ 真実の瞬間 [DVD]

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Metallica-some kind of monster (trailer) - YouTube

後年、ドラムのラーズ・ウルリッヒが「作るべきではなかった」と発言するなど、当時のメタリカが抱えていた様々な深刻な問題が全部映っているという、良くも悪くも最大の問題作だ。

*1:ヘヴィメタルの名プロデューサーのひとり。アイアン・メイデンブラック・サバス等を手掛け、ハロウィン、ガンマ・レイ、アングラといったバンドを世界的な人気バンドにした実績を持つ。

*2:アメリカあたりだとガキの頃に聞いた音楽からは卒業するのが普通だが、日本とイギリスは一生同じ音楽を聞き続ける人間の割合が多い。当然、この無期限留年のロック学校の先輩たちは、毎年入ってくる新入生に対してロックの指導を行うのだ。

*3:ヨーロピアンメタルにおける世界最高のプロデューサー。アーチ・エネミー、イン・フレイムス等を手がけ、世界中のメタルバンドが彼の所有する『スタジオ・フレッドマン』にやってくる。