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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

映画【SF】
博士の異常な愛情(1枚組) [DVD]

博士の異常な愛情(1枚組) [DVD]

 

町山さんの映画塾を見て、いても立ってもいられずレンタル屋に直行。

前から気になっていた作品だったが、あらすじとかを見ても甚だピンとこず、加えて、スタンリー・キューブリックという監督の作品もあまり好きではなかったので(『フルメタルジャケット』は面白かった。ただし”前半”が)、今の今まで放置状態。

 

が、いろいろ関連動画をほじくるうちに、オイラの心は決まったね。

「観てえ」

 

そういう訳で『博士の異常な愛情』。

手違いやら混乱やら間違いやらいろんなものが混ざった挙句、原爆でもって世界があぼーんする話、とざっくりまとめたが、だいたいそんなような話だ。

 

米ソ冷戦下での戦争危機を題材にした真面目な小説を原作にしておいて、「深刻すぎると観客が飽きるから、ギャグいれようぜ」に始まり、「ギャグを入れちゃったし、コメディにしようぜ」となり、挙句の果てに主演のピーター・セラーズに「キミ、一人4役ね」とふってみせるキューブリック

だいぶ頭がおかしいぞ、この人。(※褒め言葉です)

話をふられたピーター・セラーズピーター・セラーズで、「4役はムリだけど、3役までならイケるっス」と非常に前向きな姿勢を見せるなど、こっちはこっちでどうかしてるぞ。(※褒め言葉です)

 

とにかくこの映画、ピーター・セラーズの独壇場。

中でも彼が演じるストレンジラブ博士がもう最高すぎる!!

車椅子に乗り、右手が不自由な博士なのだが、ドイツからやって来たので大統領を時々”総統”と言い間違い、感情が高ぶると右手が勝手にナチ式敬礼を行うなど(すぐに押さえつけ、自分で自分を殴ったり噛みついたりする)*1、突き抜けたオモシロキャラっぷりが素晴らしい。

ルックスといい顔つきといい、こんなに面白いキャラが暴走すると判っていたらもっと早く見たのに!!オイラのバカ!!

どうやら、ラストのストレンジラブ博士の演技はすべてピーター・セラーズのアドリブらしい。

完璧主義者のキューブリックが満を持して、この面白俳優を全力で野放しにした結果の産物。よく見ると、博士を取り囲む政府高官の中に、明らかに笑いを押し殺している人がいて、心中お察しする。

あれを笑うな、って相当な苦行だぞ!!

「総統閣下、私は歩けます!」の有名な台詞は、台詞だけ聞いた時は「何を言ってるんだろう?」と思ったが、実際に見るとあれは反則だ。

控えめに言っても面白すぎる。

 

なんだかんだ言ったところで、世界の崩壊を止められず『皆殺し装置』が発動。

あっちゃこっちゃでキノコ雲が大爆発する光景をバックに、”また会いましょう”という歌詞の楽曲がかかるという嫌味っぷり。

ユーモアのある楽しいコメディなどというものはこれっぽっちもなく、政治や軍隊というものへの痛烈な皮肉と笑い倒しが心地よい。

世界戦争を何とかして阻止しようと電話による米ソ首脳会談が行われるのだが、

「いいかいディミトリ。ボクの言ってること分かるかな?あと、キミの声がよく聞こえないから、音楽をもうちょっと下げてほしいんだけど、できるかな?」

などという実にアホっぽい会話に終始するという場面は、間抜けにほどがありもう笑えねえぞ(笑)

そもそも発端であるアメリカの戦略爆撃機による核攻撃のスクランブルの理由からして抱腹絶倒だ。

「オレのチ〇コが勃たなくなったのは、ソ連の陰謀だ!!」

どういう理由だ(笑)

こうして始まる破滅へのカウントダウンなのだが、政治家も軍人も「なんでこうなった?」と「一体だれの責任だ?」「そんなことより敵を殲滅しよう!」に終始し、いま目前にある危機を誰ひとり解決に導こうとしない。

っていうか、誰もこの危機を真正面から見ようとしない。

ここが笑えるポイントだ。

痛烈な皮肉は一周まわって心地よい。

だが、現実的に何らかの大災害なりが発生した場合、往々にしてこういう状況に陥るということをゲラゲラ笑いながらも考えておく必要がある。

例えば、3.11の際の原発事故。

あるいは、村山内閣時の阪神淡路大震災でもよい。

最近だと、セウォル号沈没事故。

非常に不謹慎な言い方だが、究極的のブラックコメディは現実の中で十二分に起こりうるのだ。

”最高の絶望はそれ自体が最高の喜劇たりうる”というのはどっかで読んだか聞いたことがある。

本作は映画というフィクションなので笑えるが、現実に同じような状況になったら全く笑えない。全く笑えないからこそ、それは最高の喜劇なのだ。

 

この映画は本当に面白い。笑いが引きつってくるのがたまらないのだ。

正直なことを言うと、キューブリックの映画はあまり好きではない。非常にスケールが大きくて難解な映画、というイメージがあったからだ。

でも、思いの外この映画は楽しめた。

何度も何度も繰り返し繰り返し見たくなる。

 

何でもそうだが、食わず嫌いはずいぶん損をする。

ピーター・セラーズという俳優の面白さもこの映画で知ったし、キューブリック作品であろうとそんなに身構えて観賞しなくてもいい、ということもわかった。

機会を見て『2001年宇宙の旅』とか『ピンク・パンサー』も見てみたい。

 

何はともあれ、ストレンジラブ博士が面白すぎる。 

 

核保有大国同士の政治競争を描いたブラックユーモア映画だが、正直なところ、この映画よりも現実の方がずっとブラックユーモアに富んでいる。

 

事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。

*1:右手も右手で博士に反撃したりする。