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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

狐のだんぶくろ/澁澤龍彦

狐のだんぶくろ―わたしの少年時代 (河出文庫)

狐のだんぶくろ―わたしの少年時代 (河出文庫)

 

澁澤龍彦のエッセイ集。

内容的には副題にある通り、自身の少年時代の回想を著したもの。

 

澁澤龍彦といえば、記憶の人。

博覧強記で知られ、古今東西のありとあらゆる書物に通じ、特にフランスの異端文学や異端文化については当時日本一の人物だったという。

ちなみに、三島由紀夫ノーベル賞候補となった作品『サド侯爵夫人』は、澁澤龍彦のサドの翻訳と『神聖受胎』に大きく影響を受けたのは有名な話だ。

 

とはいえ、そういった暗黒的なものはこの本には皆無。

彼自身のごくごく個人的な回想が綴られている。

こういった他人の思い出を、興味深いととるか興味ないととるかで、この本の評価がはっきりと分かれる気がするぞ。

ちなみに、オイラは前者。

大した理由があるわけではなく、死んだじーちゃんが澁澤龍彦とほぼ同世代なので、この本の内容は思ったよりも身近だったからだ。

 

これを読むと、澁澤龍彦という人物が案外普通の人なのだ、ということがわかる。

三島由紀夫が山の手の上流階級出身で、澁澤は郊外のイイトコのおぼっちゃん、種村季弘は浅草の下町育ち、という風にこの三人を比較すると非常に興味深い。

繰り返すが、この本に登場する澁澤龍彦は実に普通の人間であり、ごくごくありふれた少年時代を送っている。

 

冒頭から、個人的に興味深いものから始まる。

それはチョロギ。

 

チョロギ、っていうのはコレのこと。

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植物の根っこで、酢漬けにして食べる。

オイラも小さい頃よく食べていた。本のなかではお正月の黒豆の中に入っているそうだが、残念なことにオイラの地域ではそんな風に食べたりしなかったので、まったく季節と関係なく食べていたことになる。

いつの間にか食べなくなったけれど、あのサクサクした歯ざわりは食べていて気持ち良かったのを思い出す。ぶっちゃけ、味はよく分からない。

よくよく考えてみると、チョロギとお正月って全くつながらない。そういう文化がなかったから、といえば簡単だけど、そのつながらないということがオイラの家だけなのか、それとも地域性の問題なのか、といろいろ考えてしまう。

……それは内容と無関係な部分なんだけどね。

 

当然だが、澁澤龍彦とオイラとの間には、大きな世代的隔たりがある。

彼が亡くなったとき、オイラはまだ小学生だ。

当然、澁澤龍彦、何ていう名前は知らなかったし、世代的にはドンピシャであろうはずのとーちゃんも何も言わなかった。当時だけでなく最近もそうだ。

没後何年か経った後の、巡回展示をいても立ってもいられなくなって見に行った時も、「こういう人もいるんだねえ。初めて知ったよ」と、呑気にのたまうとーちゃんに、心底呆れたのを思い出す。

個人的な思い出だが、澁澤さん関連の本で見ていた品物を、現物で見れたのはとてもとても幸運な事だと思う。

一番、衝撃を受けたというか、ぐっときたのは、彼が仕立てたベルベット生地のスーツだ。自分が思っているよりもはるかに小さな背広。身長的に、澁澤さんとオイラとはあんまり変わらない、というのは知っていたけれど、こうして彼が着たであろう服を目の当たりにして、あまりの小さく華奢な代物に本当に衝撃を受けた。

  

『狐のだんぶくろ』という本は、ちょっと不思議な本だ。

ハッキリ言ってしまえば、内容はないに等しい。

アカデミックな澁澤龍彦は皆無だ。

でも、オイラはこの本がとてもとても安心するし、何度も何度も読みたくなる。

一体なぜだろう?澁澤ファンであることは理由ではない。

もしかしたら、オイラ自身が、他人のいろんな話を聞くのが楽しい性格だから、なのかもしれない。オイラは自分のことを話すのはとても苦手だ。本当に本当に、相手に対して何かを話すのは本当に苦手なのだ。

昔からの、何も遠慮することのない友人が相手でも、あるいは家族が相手でも、言葉が出ない(声が出ない)ことがよくある。

だからこそ、人の話に耳を傾けている方がずっとずっと心が躍る。

それがどんなに些細なものであったとしても。

 

そういう意味では、この『狐のだんぶくろ』という本は、もしかしたら素の澁澤龍彦と相対して、色々なことを考え、考える代物なのかもしれない。

 

この本はとてもとても安心する。

本を読む、というよりは、書いている人間と向かい合うような、そんな既視感を与えてくれる本だ。

 

【追記】

昔々の歌謡曲がこの本にはたくさん出てくる。

代表的なのはこの辺り。


キャンプ小唄 - YouTube


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唱歌 ・ 椰子の実 "YASHINOMI" - YouTube


佐藤千夜子 東京行進曲 昭和4年の東京銀座 浅草 - YouTube


サーカスの唄 松平晃 - YouTube