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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

メガデス ドキュメンタリー 狂気の旋律

映画【ドキュメンタリー】
メガデス ドキュメンタリー 狂気の旋律 [DVD]

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スラッシュメタルバンド『メガデス』。彼らの結成から02年に解散する直前までを追ったドキュメンタリー。*1

バンドの歴史を振り返る、というよりはリーダーであり中心人物であるデイブ・ムステインについてのドキュメンタリーと言った方がいいだろう。

 

デイブ・ムステイン(以下、大佐と表記)はもともとメタリカのリードギタリストだ。そこをデビュー直前で*2クビになったうえに、大佐を解雇したメタリカは一躍スターダムにのし上がっていく。ブチきれた大佐は「あの野郎、殺す!!」という憎悪と怨念をモチベーションに『メガデス』を結成。打倒メタリカに乗り出す。……とまあ、ここまでは常識の範疇。知っていて当たり前、というのが前提だ。

 

知らない人もいるだろうから、改めて書いておく。

今現在、世界一のメタルバンドは誰か?という質問があったとする。

これに対して明確な回答はない。なぜなら答える人間によって回答が違うからだ。

とはいいながら、人気、売り上げ、バンドとしてのポテンシャル、ルックス等を含めて、『メタリカ』を上げることに異論を唱えるメタル者はいないだろう。

その『メタリカ』最大のライバルが、『メガデス』だ。

ちなみに、単純な演奏技術やテクニックという点で見た場合、『メガデス』は『メタリカ』を圧倒的に凌駕する。*3

 

改めて大佐の生い立ちを振り返ると、なんというか、スケールが違う。

いろいろブッ飛んでいるというか、やっぱりアメリカは国土がデカいから、人間のスケールも桁違いなのだなあ、という実に平凡な感想に着地してしまう。

 

酔って暴れるDVな父親から夜逃げ同然で母親たちと逃げ回る生活の中、大佐を慰めてくれたのが音楽。8歳だかのときにギターを与えられて一生懸命練習するものの、お姉ちゃんから「うるさい!!」と怒られ、ギターで頭をぶん殴られた少年時代の大佐。

おさがりばっかりを着ていたせいで、少年時代はいじめられっ子だった大佐。

ちなみに、幼少時の大佐は背も低くてやせっぽちで女の子みたいな外見。なるほど、いじめられっ子っぽい。

 

だが。

 

そんな大佐も、15歳になると家を飛び出し、大麻の密売で生計を立て、高校を中退し、酒と女と喧嘩に明け暮れ、メタリカのジェームズ・ヘットフィールドの顔面をブン殴って前歯をへし折るまでに成長。

映画の中には出てこないが、万引きしたKISSのレコードでロックに目覚め、盗んだギターでバンドを始めるというサクセスストーリーは圧巻だ。

この時点にしてスケール感のデカさはハンパない。

さすが大佐。

 

酒とドラッグ、ケンカとバンド。

まさにロックンロール!!とは言ってみたものの、ありとあらゆるドラッグに手を出し、リハビリ施設に入ること15回、1度は心肺停止に見舞われるなど、完全に度を越している。

大佐を含むメンバーたちが、意外にそのことをあっけらかんと話すのも、「オイオイ」という感じで笑うしかない。

ガル・サミュエルソン(初代ドラマー)から「成功したきゃヘロインをやらねえとな」と言われ、「おっしゃ、その通りだな!!」とあっさり注射。結果としてレコーディング費用の半分がクスリ代に消えるなど、もう最初っからメチャクチャ。

ヘロインを打ってコカインを吸うという『スピードボール』を「あれは楽しかったね」と当時のメンバーがあっさり言うのだが、アッパー系のドラッグとダウナー系のドラッグを同時に服用すると高い確率で死ぬ。楽しいとかそういう問題ではない。

当然のように「皮膚の下を虫が這いまわっている」と言い始めるくらいに重度の薬物中毒に陥るのだが、それすら大佐に言わせると「キース・リチャーズやジェームス・ディーンみたいで超クールだぜ」

さすがです、大佐。

 

ベースのデビッド・エレフソンに、音楽よりもまずドラッグを仕込んだのも大佐。

……音楽学校に入学するため上京したのだが、エレフソンのかーちゃんが「LAはドラッグとかの誘惑が多いって聞くし、息子のことが心配だわ」って心配した端からこの有様。映画を観た人ならわかるが、このかーちゃんがまたとてもとても純朴そうな上品なご夫人。

アパートの上の階が地獄の入口だったとは……。ちなみに、エレフソンはせっかく合格した音楽学校には一度も出席せず中退。代わりに大佐からドラッグとロックを徹底的に仕込まれたのだった。

 

メガデスを世界一危険なバンドにしたかったし、オレ自身も世界一危険な男になりたかった」

と大佐は言うが、その言葉は全く以て正しい。

メガデスにまつわるイメージ、危険、というのは確かに一理ある。

単純な楽曲の激しさでいうと、スレイヤーの方が上なのだろうが、とにかくデイブ・ムステインという男の危険なオーラは、ちょっと他に類を見ない。

メタリカやスレイヤー、アンスラックスといった他のBig4がメンバーそれぞれの持ち味で完成しているのに対して、メガデスは大佐によって作られている。

さらに言うなら、Big4の中で際立った演奏技術とルックスを持つのもメガデスだ。

 

話を戻すが、メガデスを世界一危険なバンドにしたかったし、オレ自身も世界一危険な男になりたかった」というのは、大佐自身の不遇な幼少期からくる愛情の渇望の裏返しなのだろう。

実際、このデイブ・ムステインという男はシニカルで皮肉な物言いをする。歌詞にそれは色濃く表れているし、インタビューでも時折そんな風に話す。

要するに屈折しているのだ。

誰よりも人に愛されたい、と望みながら、どうすれば人に愛されるのかが分からない。分からないから苛立ってシニカルな物言いをして、人から嫌われる。嫌われても構わねえぜ、と言いながらそれに耐えきれないので、クスリに手を出す。

……ある時期、っていうか結構最近だったりするんだが、とにかく、ある時期までの大佐はそんな感じだった。

 

それが今じゃ随分丸くなったし、クスリどころか酒も飲まない。

ちなみに、メガデスというバンドは完全禁煙で、スタッフが隠れて煙草を吸おうものなら、ライブ後大佐からの説教が待っているところまで行き着いた。

このドキュメンタリーが発表されて程なく、メガデスは解散してしまうのだが、そこに至るまでの苦難の歴史を一挙に見れるのはファンとしては非常に感慨深い。

歴代ギタリストの中で最長の在籍期間だったマーティー・フリードマンの離脱、そして後任に迎えたアル・ピトレリとの間にケミストリーが生じなかった、という残念な結末。確かに技術的にピトレリはとても優れているが、器用な反面、突出した何かを持っていないギタリストであるのも事実だ。

『キャピトル・パニッシュメント』というベスト盤があるが、正直、そこに収録されていた新曲は、過去作と比べるといま一つ。

解散だ、と聞いた時は、残念というよりも「やっぱりか」と思ってしまった。

 

そうは言いつつも、とにかく前半、つまりメタリカ加入~解雇、メガデスの結成にいたる一連の流れは非常に素晴らしい。抱腹絶倒というか、セックス・ドラッグ・ロックンロールをまっすぐGO!!なストーリーはものすごい。

メタリカ加入時のエピソードでは、メタリカのメンバーが当時を語ったり、その当時の様子(ジェイムズ、ラーズ、クリフ、そして大佐という伝説のラインナップだ!!)をアンスラックスのスコット・イアンが「どれくらいすごかったか」を語ったり、知ってはいたが改めて聞くと、やっぱすげえ、な話が盛りだくさん。

 

さらに言えば、大佐の狂犬エピソードも盛りだくさん(笑)

 

飲酒暴走事故を起こして逮捕されるが、その時にギタリストのジェフ・ヤングから「大佐、酒とクスリをやるなとは言わない。酒と大麻とコカインと……とにかく、全部一度にやるな。せめてどれかひとつにしようよ、頼むから」

 

他にも、

ジェイムズ・ヘットフィールド曰く「あいつはまるでジキルとハイドだ。その上ケンカも強いと来るから余計に始末が悪い」

デヴィッド・エレフソン曰く「ヴァン・ヘイレンの曲を練習していたら、突然二階から植木鉢が降ってきた。恐る恐るベランダに出ると「うるせえ!!殺すぞ!!」と怒鳴られた」

ロン・マクガウニー曰く「ある日ベースを弾こうとアンプにプラグを差し込んで電源を入れたら感電して吹っ飛んだ。デイブがオレのベースにビールを一瓶流し込んでたからだ」

当時のツアマネ曰く「(宿泊したホテルの)デイブの部屋に行ったら、メチャクチャに破壊されてて、ベッドが真っ二つになってた。「どうしたんだ?」って聞いたら、「知らねえよ!!さっさと替えのベッドを持ってこい!!」と怒鳴られた」

大佐曰く「親父の死に目に会うために泥酔した状態でバイクを飛ばして病院に向かった。バーボンをラッパ飲みしながらね」

 

とにかく、もうメッチャクチャ。

 

そんな薬物にどっぷり依存していた状態からの脱出と、メガデスでの成功と挫折を繰り返しながら、今現在にいたる。

 

個人的には、やりたい放題やっていたメガデスのメンバーに対して「いい加減にしろ。俺もそうだったが、今に自滅するぞ」と忠告したショック・ロックの帝王アリス・クーパーの言葉が重い。

大佐が最後に厚生施設入りしたとき、後見人になったのがアリスだというのを考えると、なお感慨深い。

 

ともあれ、見るべきは大佐の信念だ。

麻薬でベロベロになっていようが、禁断症状で吐きまくっていようが、彼は常にステージに立つ。

自身の生きる場所、そして、自身が表現できる場所がライブなのだということを、他の誰よりも知っているからこその行動。やっぱり、デイブ・ムステインという人間は、そんじょそこらのギタリストとは一線を画す。

彼は本当に、優れた希有なギタリストであり音楽家だ。*4

紆余曲折はあったが、それを含めて、今現在、彼の楽曲が聞けるということに幸せを感じる。メガデスの直接的なファンだったのはもう昔のことなのに、それでもなお、このバンドを応援したい。

だって、オイラのリフの刻みは、大佐の真似をして身に付けたのだ!!

 

【追記】

元メンバーなので当然のようにマーティー・フリードマンが登場。

世間ではすっかり”ギターの上手い面白外人”という扱いの彼だが、スーパーギタリストだと言う事を忘れてもらっては困る。

あと、本作では英語でインタビューに答えるのだが、いつも「アゲアゲじゃん!!」だの「マジ最高!!」だの流暢な日本語を喋っているので、「ああ、マーティーって英語が喋れるんだな」というよく分からない感慨が……。


Marty Friedman with Aki Yashiro - YouTube

*1:04年に再結成。

*2:デビューアルバムのレコーディングのためニューヨークへ移動。到着したら即解雇された。

*3:圧倒的に凌駕しながらも、メガデスは全米1位を取ったことがない。なぜならメタリカが常に彼らの前に立ちはだかるからだ。

*4:ジョエル・マクアイヴァーの著書『100人の偉大なメタル・ギタリスト』で1位に選ばれている。