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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

スーパー!

スーパー! スペシャル・エディション [Blu-ray]

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最新作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の公開を間近に控えた、ジェームズ・ガン監督の作品。なりきり素人ヒーローがドラッグディーラーの下に走った妻を取り戻すべく奮闘するブラック・コメディ。

 

このテの映画で真っ先に思い浮かぶのは、マシュー・ボーン監督の『キック・アス』。

キック・アス』が主人公の成長とヒーローとは?という題材をクロスさせていたのに対し、こっちの『スーパー!』はもっと地に足がついているというか、ヒーローとは何か?という命題に対してもっと俯瞰して捉えているように思える。

単純にそれは、『スーパー!』は冴えねえオッサンが主人公だということも無関係ではないだろう。

何故にスーパーヒーローになろうとするのかというと、天啓(という名の通り魔的人間改造)なのが面白い。宗教的ヒーロー番組というのがアメリカにはあり、それを元にこの映画は作られている。神の啓示でヒーローとしての正義の心に目覚めるというのは、信仰心の薄い日本人にとってはとても新鮮。

「神の名の下に正義を行使する」という極めてアメリカ的な悪夢を見せられるのは、ちょっとばかしブラックすぎるような気もするが、そこも含めての狙いなのだろう。

 

キック・アス』との最大の違いは、何といっても製作費だ。

ちなみに、『スーパー!』は厳密には自主製作映画にカテゴライズされる。

ドーン・オブ・ザ・デッド』&『スクーピー・ドゥ』の二本をボックスオフィスの1位に叩き込んだジェームズ・ガン監督だったが、満を持しての監督作『スリザー』がコケてしまい、ハリウッドから干されてしまった。*1

どん底のガン監督が、自身の製作&脚本で作り上げたのが本作。

『悪魔の毒毒モンスター』で知られるトロマ映画でのデビューから現在まで、映画製作の隅から隅までを知り尽くしたこのナイスガイを、俳優たちは見捨てなかった。

低予算の自主映画にもかかわらず、リヴ・タイラーエレン・ペイジマイケル・ルーカー、そしてケヴィン・ベーコンといった超大物たちがほとんどノーギャラで参戦。

これだけでも彼がいかに俳優たちに慕われているのかがよく分かる。

監督自身の境遇と、この映画のストーリーとが奇妙に絡み合うので、全然関係ないと判っていてもなんかグッとくる。

 

とはいえ、主人公クリムゾンボルトは街の悪を一掃すべく、ヒーロー活動にいそしむのだが、現実世界にヒーローがいたら?というのをリアルに描いているので、不審者そのもの。でも、当人は至って真面目だ。

そうやって当初はゲラゲラ笑いながら「仕方ねえなあ」とか楽しんでいると、中盤に映画館で列に並んでいたらカップルに割り込まれる、という場面が出てくる。注意してもカップルが聞かなかったので、クリムゾンボルトが登場。武器である巨大なレンチを男に振り下ろして制裁を加えるのだが、この場面、非常にリアルだ。

なぜなら、レンチの一撃で男は頭を割られ、出血。彼女の方にも一撃が加えられるのだが、これも大けがだ。

当たり前のことだが、ヒーローであるからといって勝手に制裁を食えわえてはならない。自警主義はアウトローマスターベーションでしかないのだ。

正義の下に、というお題目は結構だが、その正義とやらいうものが成文法の元にある正義でない以上、行使される正義は正義ではない。ただの暴力でしかないのだ。それをコメディというかたちではあれ、まざまざと見せつけるこの映画は意外に深いところに病巣がある。

実際、監督のインタビューで語られているが、本作の原作となっているのは『宗教的経験の諸相』という非常にお堅い本。宗教的啓示を受けた人間は、啓示を受けていない人間の目には気が狂っているようにしか見えない、という具合な宗教的経験について書かれてある本当に本当に真面目な本だ。

宗教的経験、というものが本作において非常に重要な意味を持っているので、興味がある人は読んでみるといいと思う。

宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)

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宗教的経験の諸相 下 (岩波文庫 青 640-3)

宗教的経験の諸相 下 (岩波文庫 青 640-3)

 

 

とかなんとか真面目な事を書いてはみたが、本作の一番の見どころは何といってもエレン・ペイジの大暴走(笑)。

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エレン・ペイジといえば『ジュノ』や『ローラーガール・ダイアリー』などで知られる超童顔のカワイ子ちゃん女優。フィルモグラフィを見れば一目瞭然だが、とにかくマジメな映画に多数出演する優等生女優が本作ではまさかまさかの大暴走(笑)。

「この人バカ演技ができるんだ!!」という驚愕のキレ具合の怪演は爆笑必至だ。

 

若干、ラスト・シーンに至るまでの主人公の内面的成長が「ん?」と思わないではない。

確かにボスのケヴィン・ベーコンは悪党かも知れないが、クリムゾンボルトに虐殺に近い凄惨な殺され方をするほどの悪人には見えなかった。というか、殺されなくてはならないような罪を犯しているようには見えない。

もしかしたら、厚い信仰心や社会正義があれば見方も変わるのかもしれないが、クリムゾンボルトの中にある自己の正義という極めて主観的であいまいなものにのみのっとった制裁なので、そこの部分が大きく引っかかる。

正義の行使というより、感情的な復讐にしか見えないのがオイラとしては違和感を抱くところだ。もっとも、そこを問題提起にしているのだろうけど。

この辺りの「人が人を裁くとは?」という永遠不変の問題。

最も有名なのはこの作品だ。

許されざる者 [DVD]

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エロもグロもバイオレンスもあるので万人に勧められるかというと疑問だが、予想以上に面白かった。

確かに自主製作映画なので絵面の安っぽさはあるが、それがガン監督の豊富なアイディアと手作り感覚でいい具合に相殺されている。

特にオープニングのタイトルバック。このポップでキュートで、でも毒がある手描きアニメーションは本当に素晴らしい。

こんなに引き込まれてワクワクするオープニングは久々。

 

いい意味で予想を裏切られる、うれしいサプライズだ。

 

【追記】

本作はつねに『キック・アス』と比較されるのだが、オイラとしては主人公の名前がフランクという点で、この作品を挙げておきたい。

パニッシャー:ウォー・ゾーン [DVD]

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こっちのフランクも、正義のために越えてはならない一線を越えた男だったりする。


THE PUNISHER ( War Zone ) - First Brutal Scene ...

 

*1:この時奥さんからも捨てられた。