眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

ワカコ酒3/新久千映

ワカコ酒 3 (ゼノンコミックス)

ワカコ酒 3 (ゼノンコミックス)

 

3巻が発売されたので、1巻から読み直す。

読むたびに思うのだが、この”ほっこり感”が素晴らしく、そこに”ありふれた日常感”が加わることで、これといった明確なストーリーがないにもかかわらず、登場人物のキャラクター性がすっと頭に入ってくる。

とにかくこのマンガ、背景にある現実感というか日常感のようなものが秀逸。

「いるいる、こういう人」とか「あるある」という共感をとても強く呼び覚ます。

そういうリアルな空気感とは対照的な、きわめてマンガチックにディフォルメされた絵柄にもかかわらず、見事なまでに双方がピッタリかみ合っている。

現実感とディフォルメって絶対に相性が悪いはず、というのはどうやらオイラの先入観だったようだ。

もっとも、現実感といったところで、飲みすぎて吐く、とか、酔っぱらってその辺で爆睡とか、ベロベロに酔っぱらって脱ぐ、とか、二日酔いで行動不能、とか、そういったシーンはない。

こういう部分を描かない、という点に関して主人公のワカコが女子で本当によかったなあと思う。いくらリアリティといってもそういうリアルは見たくない、というのが万人の一致するところだろう。

というか、そんなになるまで飲むな、という話なんですが。

 

そういう点から考えると、『ワカコ酒』は非常に上品なお酒の飲み方だと言える。

こういうのはとても大事だ。

お酒が入っているんだからバカをやっても許される、とか、無礼講、という体育会系な酒の飲み方が、世間では”元気があってよい”とか”空気が読める”とか言われてもてはやされる傾向にある。逆に酒席や会食といったものに対して、スマートさを求めてしまうと”堅苦しい”と言われる始末。そういう席だからこその相応のマナーがあるんだつーの。

オイラにとっての模範的な(理想的な&目標とする)酒の飲み方をする人が、作家・立原正秋

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彼自身は非常に料理にうるさい美食家であると同時に、当時の文壇酒豪番付で横綱に列せられるくらいに呑む人。ものの本によると、1日で1升瓶3本を開けることなんてザラだというから、流石としか言いようがない。ちなみにそれだけ飲んでも一切乱れなかったとか。スゲエ。

んで、この人が外で酒を飲むとき、自分自身と列席者に課す掟がまた素晴らしい。

  1. 泥酔するまで飲まない
  2. 酔って人に絡まない
  3. 酔って大声を張り上げない
  4. 酔って女を口説かない
  5. 飲むペースは人によって違うので、必ず手酌
  6. 飲むペースは人によって違うので、飲むことを強要しない
  7. 酔って醜態をさらすようなマネは絶対にしない

うろ覚えだけど、ざっと挙げてみた。

この7カ条を見て「そんな飲み会楽しくないじゃん」と思っている人とは、個人的にちょっとお近づきにはなりたくない。

いわゆる”飲みニケーション”的な場であっても、踏み込まれたくない話題や領域、言いたくないこと&言われたくないことだってある。それを酒の勢いだからといって土足で踏み込まれることほど苦痛はない。ましてそういったことをやらかしておいて、ざっくばらん、の一言で済ませて無反省というのは、人間としてどうだろう?

そういう点で考えると、『ワカコ酒』の”ほどほどな感じ”は、とても好感が持てる。

 

もう一つ思ったのは、この作品を筆頭にグルメ漫画のありかたが変化していることだ。

グルメ漫画というよりも食事マンガといった方がしっくりくる。

なぜなら、グルメという言葉の示す食通的なイメージを離れて、日常生活の中にある食事風景が主題になっているからだ。もちろん、そこで登場する食事は高級なものである必要は全くない。むしろ逆に、ごくごく普通にどこでも食べられる程度の平凡なものであればあるほど良い。むしろ、そこにこそストーリーの核がある。

同種の作品は、なんといっても『深夜食堂』。

深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)

深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)

 

 

このマンガで登場する料理は、非常に安っぽい。

例えばウインナー炒めは昔懐かしい赤いウインナーをタコにしたものだし、ポテトサラダも別に素材にこだわって作ったものではない。それにもかかわらず、ストーリーの中にこの料理では無ければならない必然性があるのだ。

この辺の語り口の上手さは『ワカコ酒』も同様。ただこちらは作者がまだ若いので、物語というほどストーリー性があるとは言えないが(でも巻を重ねるごとに語りの技術が上がっている)、でも読みながらそれぞれの登場人物のバックグラウンドをあれこれ考えさせてくれるだけの魅力的な余白がある。

そういった意味で合わせて読んでもらうといいなと思うのは、よしながふみの『きのう何食べた?』。

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)

 

この作品は、さりげない日常とその日常の中にある料理に加え、料理を作るという要素が加えられている。そして、その料理を囲む食卓の描写の秀逸さは本当に素晴らしい。ひとつの家庭のほっこりする光景というのに、最近ちょっと弱い。……まあ、ゲイのカップルの話なのでBLっちゃあ、BLなんだけどね。

 

で、グルメ漫画における最悪の作品が『美味しんぼ』。

美味しんぼ (1) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (1) (ビッグコミックス)

 

ごくごく初期段階はストーリーに料理が組み込まれる必然性があったが、さすがに最近は必然性を通り越して必要性さえなくなりつつある。

究極のメニューVS至高のメニューの戦いで提示された様々な食の問題が、ただ提示されているだけで現実どころか作中においても全く変質しない。

結果として、ストーリーから料理が乖離するどころか、それが異物化しているというグルメ漫画というジャンルとしては致命的な状態にある。

 

美味しんぼ』の教訓として、食をダシに政治や思想や文化を語り出し始めたら要注意だ。

最近だと『おせん』がその罠に陥りつつあった。

おせん(1) (イブニングKC)

おせん(1) (イブニングKC)

 

まあ、想像を絶するZ級完成度でのドラマ化という悪夢に見舞われた原作者の気持ちもわからないではないが、ちょっと目に余る。

いずれにせよ、物語の語り口が変な具合になったら要注意。

といいつつ『鉄鍋のジャン』のように最初からすべておかしいマンガもあるからなあ……。

鉄鍋のジャン 01 (コミックフラッパー)

鉄鍋のジャン 01 (コミックフラッパー)

 

 

グダグダと書いたが、まあ『ワカコ酒』が政治や文化や思想を語り出すとは到底思えないので心配はいらないが、3巻はこれまでとちょっとだけ雰囲気が違うので余計に次の本に期待が高まる。

何度読んでも面白い。

 

【追記】

ワカコ酒』は何とドラマ化決定!!

……そして蘇る『おせん』&『花のズボラ飯』の悪夢。


おせん - YouTube


ドラマ「花のズボラ飯」 予告(公式) - YouTube