眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン

AOR*1の大御所バンド『ジャーニー』に新加入したボーカル、アーネル・ピネダとバンドメンバーを巡るドキュメンタリー。

フィリピンのストリートチルドレン出身でどん底にあったアーネルが、ジャーニーのメンバーからYoutubeで歌っているところを発見され、メンバーに迎え入れられる、という部分だけが強調して宣伝されているが、実際に見てみるとその要素は思いのほか少ない。

このドキュメンタリーで強調されているのは、アーネル側の偉大なビッグバンドで歌うことの重圧と、バンド側の偉大なビッグバンドであり続けることの苦悩、という2点だ。

 

ちなみに、Youtubeでボーカルを発掘するのは別段珍しいことではない。

ジューダス・プリーストがリッパー・オーウェンズを、ドラゴンフォースがマーク・ハドソンをそれぞれ発掘しており、それまでライブハウスやデモテープで探していたのがインターネットという便利な道具によって、対象が世界中に広がっただけの話。劇中でも「検索キーワードを入れまくって、11時間も検索してた」とあるくらい。便利になったのか不便になったのか、何とも判断がつきかねる。

 

それはさておき。

 

偉大なビッグバンドで歌うことの重圧は相当のものだ。

ジューダス・プリーストロブ・ハルフォードの後任として加入したリッパー・オーウェンズ。

アイアン・メイデンにブルース・ディッキンソンの後任として加入したブレイズ・ベイリー。

ヴァン・ヘイレンにサミー・ヘイガーの後任として加入したゲイリー・シェローン。

モトリー・クルーにヴィンス・ニールの後任として加入したジョン・コラビ。

彼らの双肩にのしかかる”前任者を超えろ”という重圧は相当なもの。まして、バンドの顔ともなるボーカリストならば余計に。

当然、それはアーネル・ピネダも同様。ボロクソにこきおろされ「ネットを見たら酷評されててすごくヘコんだ」と苦笑しながら語る彼の気持ちはどれほどだっただろう。

とはいえ、そういう風に「なんでコイツが?!」というファンの気持ちも分からないではない。そもそも”ファン”という単語自体が”ファナティック=狂信者”から派生している。なのでそのバンドが好きであればあるほど、変化は歓迎されない。

自分の最も好きな状態で永遠にいてほしいと願うのがファン心理というものだろう。

そんな逆風を、実力でねじ伏せようとする彼の心意気にはグッとくる。

 

とにかく、このアーネルの歌唱力の圧倒的はトリハダものだ。

声量といい、透明感といい、声の伸びやかさといい、これほどの超絶ボーカルがフィリピンに埋もれていたのかと思うと、世界はホントに広いと思わずにはいられない。

ドラマチックな加入劇を経て全米ツアーに参加するのだが、ロックビジネスにおけるボーカリストの過酷さは壮絶の一言に尽きる。

2~3日おきにファイナルまで延々と続くライブ。それも移動とライブが延々続く過酷な毎日にもかかわらず、風邪をひこうがどんな精神状態にあろうが最高の状態が常に求められる。常にファンの目にさらされ、プライベートはないにも等しい。

アーネルにすれば永遠に続くかのようなライブ日程でも、ファンにとってはかけがえのない1回。手を抜くことは絶対に許されないし、その1回が彼にとって命取りになりかねない。

こういうプロのボーカリストの日々を見てしまうと、ニコニコ動画の”歌い手”なんてお遊び以下だ。ジャーニーというバンドのツアーであるが故に、会場には1万人単位の観客が詰めかける。その圧倒的な人数の前に毎日立たなければならない。その裏側は圧倒的に苛酷だ。特にボーカリストは自分自身の体しかないので、それを常に最高の状態にしておかなければならないということが神経を著しくすり減らす。

初めての、それこそ未体験の大規模ツアーの中で、ジャーニーに相応しいステージパフォーマンスと体調管理に忙殺されるアーネルの姿は痛々しくもあり、でも前向きに120%の力でステージに臨む姿に勇気づけられる。

 

とはいえ、それまで大した人数の前でしか歌ってこなかった彼に向かって、「今日は18,000人客が入ってるって」とあっさり言い放つ、リーダーのニール・ショーン

その瞬間、表情が消えるアーネル(笑)。

見てるこっちも苦笑いだが、その気持ちはよく分かるぞ(笑)。*2

 

そんなアーネルを支えるバンド側もまた、苦悩を抱えている。

それは偉大なビッグバンドであり続けることの苦悩だ。

伝説のままで終わるか?それとも、無様な姿をさらしても続けるか?

余りにも簡潔な二者択一を迫られる。

前者は、クイーンやレッド・ツェッペリンのように輝かしい伝説のまま幕を引いた。

後者ならディープパープルやキッス。全盛期とは比較にならないほど無残な状態だが、彼らは未だ現役だ。

一概に、どちらがいいとは言い切れない。ジャーニーが選んだ選択肢は現役続行。

だからこそ、若いアーネルの存在が必要だったのだろう。彼がナイーブな精神状態に陥りそうになるたびに、「お前は最高だ!!」「お前ならできる」「おれたちが全力でフォローするぜ!!」と声をかけるのだが、オイラの目にはアーネルに対してだけでなく、自分たちを鼓舞する言葉に聞こえてならなかった。

 

余談だが、続行か解散かの岐路に立っているのがモトリー・クルー

80年代最も華やかなグラムメタルバンドも、今ではみんな50代。輝かしい伝説は輝かしいままにしたい。だからこそ、彼らは今年のツアーで表舞台での活動を終了させる。

 

ジャーニーの歴史は長い。

これまでアーネルを含め、4人のボーカリストが変わった。その都度、評価もされたし酷評もされた。バンド内の人間関係も冷めてきって、険悪な中でツアー日程を消化したときもあった。プライベートもボロボロになった。

それでも、彼らはバンドを続ける道を選んで現在に至る。

 

どんなバンドにもいつかは寿命が来る。人間の人生と同じで、永遠に続いたりはしないのだ。

でも、その終わりの瞬間までポジティブであろうとするジャーニーの存在は、見ているこちらを勇気づけてくれる。”信じることを止めないで”という本作のタイトル、このポジティブさは忘れてはならない。

自分自身の可能性を信じつづけて、努力し、前進していけば、いつか必ず明るい未来にたどり着ける。

なんというか、明るいエネルギーに満ち溢れたドキュメンタリー映画だった。

 


Don't Stop Believin' Lyrics - Journey(Arnel ...

; (Live in Japan ...

*1:アダルト・オリエンテッド・ロックの略。都会的で洗練された楽曲と高い演奏技術により、大人の観賞に足るロックを指すジャンル。代表的なバンドにTOTO、REDスピードワゴン、ボストンなどがある。

*2:イギリスのヘヴィメタルバンド『ドラゴンフォース』に新加入したマーク・ハドソンも同様の事態に見舞われた。それまで親しい友人の前でのお遊びライブしかしたことのなかった彼のお披露目ライブは、アイアン・メイデンの前座。20人くらいライブから一気に3万人の前での初ライブ。「そんなのやったことないよ!!」とパニクったら、「オレたちだってやったことねーよ!!」と他のメンバーに逆ギレされた。