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眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

エクソシスト【ディレクターズカット版】

映画【ホラー】
エクソシスト プレミアム・ツイン・パック [DVD]

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前回は、”『エクソシスト』は何故怖いのか?”というマジメな話だったので、今回は後半戦。”フリードキンの気合、超ハンパねえ!!”っちゅーことをつらつら書こうかと思います。

映画ファンなら(ホラー映画ファンなら)お馴染みかと思いますが、この『エクソシスト』という映画、製作現場が最初から最後までムッチャクチャ(笑)

映画評論家の町山智浩さんが「映画史上、あの時だけ許された演出方法」と評し、「今これをやったら裁判どころじゃ済まないね」とまとめる始末。

とにかく抱腹絶倒の地獄の現場っぷりはものすげーぞ、この映画(笑)

  

この『エクソシスト』の参加したキャスト&スタッフたちが声をそろえて言うのが「あの現場には悪魔がいた」。

一気にオカルト色が強くなるがこれは事実。

なぜなら、その悪魔の姿かたち、そして名前まで分かっているのだ。

その悪魔とは、監督ウィリアム・フリードキンその人だぜい!!

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1 ジェイソン・ミラーの証言

フリードキンは本作エクソシストを”緊張感のある作品”にしようとしていた。そのために彼がやったのは、撮影現場にショットガンと拳銃を持ち込み、いきなりぶっ放す(笑)というもの。当然のことだが、現場は凍った(笑)。

特にジェイソン・ミラーは若い時に銃の暴発で怪我をしているので「監督、マジでやめてもらえませんか?ホントお願いします」と懇願。意外にもフリードキンは「OK.わかった」と了解するものの、いきなり彼の耳もとでマグナムをぶっ放す(笑)

それがこのシーン。(※イメージカットでお送ります)


Exorcist Phone Jump Scene - YouTube

実際、このシーンを撮影する際、ホントに耳もとで拳銃をぶっ放すという暴挙を嬉々として行うフリードキンに、ジェイソン・ミラーはノイローゼ寸前(笑)。

なお、この暴挙を目撃したマックス・フォン・シドーは大激怒。

「オレの出てるシーンでぶっ放したら降板してやるからな!!」とフリードキンに詰め寄ったとか。

が。

この強気な態度が後に地獄を見るハメに……(笑)

 

2 マックス・フォン・シドーの証言

本題に入る前に、本作『エクソシスト』で最高の技術が費やされているのが、実はマックス・フォン・シドーのメイク。

手がけたのは巨匠ディック・スミス

撮影当時40代だったシドーを、ディック・スミスの神業的な特殊メイクによって老人にしたというのは非常に有名な話。ちなみに、

ディック・スミスの神業は他にも、『タクシードライバー』におけるデニーロのモヒカン、『ゴッドファーザー』でのマーロン・ブランドの老けメイク、『ハウリング』でのデヴィッド・ボウイの老化などで堪能できます。

さて、余談はこれくらい。

 

悪魔フリードキンはこの名優に与えた脚本に早速細工を施す(笑)

リーガンから緑色の粘液を吐き掛けられるシーンは、シドーの脚本には書かれておらず、完全に不意打ち(笑)それでも演技を止めないシドーは役者の鏡だ。

でも矢継ぎ早に繰り出される不意打ち2弾、例の”心のポエム”*1でショックを受けすぎてしまい、演技が続けられない状態に。

……まあ、13歳の女の子が言う台詞ではないわけだけどね。

結局、素で「ちょっと休憩しよう」と言ったらそれをOKテイクにされるという悪魔の所業。

流石は悪魔フリードキン。

ベテラン俳優にも容赦なし。

 

3 エレン・バーンステインの証言

二番目に被害を受けたのが彼女、エレン・バーンステイン。

映画会社は彼女ではなく、オードリー・ヘップバーンを推してきたのだが、フリードキンはこれを拒否。かくして「彼女が一番おっかない顔をしてたから」というそれは女優に対して言う台詞か?という理由でキャスティングされたのがエレンさん。

手の早いフリードキン、さっそく彼女をコマす(笑)

地獄のような現場であるにもかかわらず、フリードキンとエレンはラブラブ。悪魔に憑りつかれたリーガンに突き飛ばされて倒れるシーンを撮影中、どうしても彼女の演技に納得のいかなかったフリードキンは、セットの外から腰につけたワイヤーで引っ張ることを彼女に提案。案の定「危なくないの?心配だわ」という彼女に対し、フリードキン曰く「愛しいハニーにそんな危険なことするわけないじゃないか。第一、僕はこの映画の監督だよ」。

その言葉にすっかり安心したエレンをさておき、ワイヤー係のスタッフに対してフリードキンが命じたのは「あの女のワイヤーを死ぬ気で引っ張れ」。

映画を観た方ならわかると思いますが、思いっきり床に叩きつけられたエレンさんは尋常でない苦悶の表情と悲鳴を上げました。ちなみに、この演出で彼女は腰骨と背骨をねんざ。即病院に担ぎ込まれました。

余談ですが、本作の撮影終了後、フリードキンはあっさりエレンさんを捨て、映画会社の社長令嬢と結婚しました。

 

4 ウィリアム・オマリーの証言

本作『エクソシスト』における最大の被害者であり犠牲者が、ウィリアム・オマリーさん。

だいたいにおいて、この人、俳優じゃないんだが。

彼は悪魔祓いの儀式を監修するためにバチカンから派遣された本物の神父さんで、位も結構高い方。にもかかわらず、気付けばなぜか映画に出演させられる始末。

しかも、現場じゃ監督が銃をぶっ放してるわ(笑)、女優を引き倒して病院送りにしてるわ(笑)、いたいけな女の子が卑猥な心のポエムを口にするわ(笑)と阿鼻叫喚の地獄絵図。

本当に、ご愁傷様としか言いようがない。

そんな彼に降りかかった最大の被害がラストシーン。

カラス神父に対してオマリーさんが演じるダイアー神父が最後の許しを授けるシーン。感情が高ぶり、目に涙を浮かべて肩を震わせながらの最後の許しを授ける姿は、まさに迫真の演技……と言いたいところだけど、実はこれ演技じゃない。

夜中の2時に撮影し、初めての演技で「泣け」と言われてできるはずもなく、オマリーさんは大苦戦。NGを30回以上出したところでついに音を上げ、フリードキンに懇願します。

「私、素人なんで芝居なんて無理ですよ。もう皆さんに大きく迷惑をかけてるし……。監督、どうすればいいのか教えてください」

フリードキンはにこやかに答えます。

「あなたは、私のことを監督として信頼していますか?」

「もちろんです。だから教えてください」

オマリーさんが言った途端、炸裂するフリードキンのグーパンチ(笑)

いきなり横っ面をぶん殴られ、身を震わせながら涙目のオマリーさんを尻目に、悠々とディレクターズチェアにふんぞり返ったフリードキンはこう言ったとか。

「よし涙が出たな。始めるぞ」

鬼だ、この男(笑)っていうか、もはや演出じゃねえ(笑)

素人ぶん殴って泣かせて芝居させるって……。

ちなみにこのシーンでは多数のエキストラがいたため、現場が完全に静まり返り凍りついたらしい。当然だわな。

 

5 ラロ・シフリンさんの証言

「誰?ラロ・シフリンって?」という方もいるかと思いますが、彼はアルゼンチン出身の音楽家。

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彼の名前は知らなくとも、この曲は誰もが知っているはず。

それがコレ。


Enter The Dragon(1973)-Main Theme - YouTube

彼は他にも、『ダーティーハリー』シリーズ、『エアポート’80』、『ラッシュアワー』シリーズを手掛ける名作曲家。

彼は本作に起用された時、恐らく相当気合を入れて仕事に臨んだのでしょう。

まあ、フリードキンはこの前年にアカデミー監督賞を獲ってるし、そんな巨匠と仕事をすれば自分の名声も上がるに違いない、と考えるのは当然の成り行き。

シフリンさんはエクソシストが悪魔祓いの映画であるところに注目し、ストラヴィンスキー風の荘厳なオーケストラ曲を作曲し、デモテープをフリードキンの下に持参します。並々ならぬ彼の気合を象徴するように、なんと家族同伴(笑)

デモテープを受け取ったフリードキンは早速カセットデッキに入れて、再生ボタンをスイッチオン!!そして流れるストラヴィンスキー風の楽曲。

ものの3分も経たないうちにフリードキンは大激怒(笑)

「このストラヴィンスキーまがいのクソ曲を止めやがれ!!」

そう怒鳴ったかと思うとシフリンさんのデモテープを引き抜き、

「クソみてえなてめえの曲にはここがお似合いだぜ!!」

事務所の窓から外の駐車場にデモテープを叩きつけるフリードキン(笑)

壊れるカセット、茫然とする家族、そしてシフリンさん(笑)

フリードキンの言葉は、

「テメエはクビだ!!」

家族の前でまさかのクビ宣言(笑)

……こうしてシフリンさんはめでたくクビになり、後釜はマイク・オールドフィールド*2

こうして生まれたのがあの有名なエクソシストのテーマ。


エクソシスト (The Exorcist) テーマ 曲 サントラSP盤 - YouTube

ちなみに、チューブラーベルズによるこの曲はマーク・オールドフィールド一人による多重録音で収録されたため、バカ売れしたサントラの印税はマークさんの懐に総て入りました。ウハウハです。

人生、何が転機になるか分かりませんね。

 

6 ウィリアム・ピーター・ブラッディさんの証言

ウィリアム・ピーター・ブラッディさんといえば、本作『エクソシスト』の原作者。で、脚本も彼が書いている。

エクソシスト (創元推理文庫)

エクソシスト (創元推理文庫)

 

 原作者だから脚本を彼が手がけるのも自然な成り行き。

で、脚本を持参してフリードキンのところに行ったところ、意外にもすんなり興味を示してきた。なので脚本を渡してみたところ、10ページほどパラパラ読んだフリードキン。いきなり脚本をゴミ箱に捨てる(笑)

「テメエ、こんな腑抜けた脚本で映画が撮れっか!!」

散々罵詈雑言を浴びせられたブラッディさんは、帰宅後その怒りを全て脚本にブチこんでできたのが、本作の決定稿。

フリードキン曰く「憎悪や狂気に溢れた脚本になった」とのことだけど、そこまで追い込んだのはアンタだし(笑)

もう、どこまでもどこまでもフリーダムなフリードキン。

 

 

そんなこんなで完成したのが、映画史上に残る問題作『エクソシスト』。

実際に、「娘に悪魔が憑りついた」として母親が思春期の娘を殺害する事件が多発するなど、本当にシャレ抜きの問題作になったことが、良くも悪くも『エクソシスト』に箔を付けました。

”本作は実話に基づいた映画である”というのはフリードキン自ら付けたキャッチコピーだが、実はこれが相当な食わせ物だということがわかったのはずっとずっと後のこと。

詳しくはこちらの本に書いてあります。

暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌

暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌

 

 

なお、フリードキンはこの後、多額の製作費を突っ込んだ『恐怖の報酬』を監督するも興行的にも批評的にも大失敗。この辺からケチがつき始め、『L.A.大捜査線/狼たちの街』では『マイアミ・ヴァイス』の盗用だとしてマイケル・マンに訴えられ*3、『ガーディアン/森は泣いている』はあまりにあんまりな映画だったため、なかったことにされたりとキャリアは下降線をたどり、2006年の『BUG』や2011年の『キラー・スナイパー』に至ってはほとんど自主映画での興行という有様。

 

悪魔と思ったフリードキンも、『エクソシスト』に振り回され続けてきたんだなあ、と振り返ってみて改めて思いました。

 

とはいえ、本当にオモシロイ映画がこの『エクソシスト』。

眼鏡堂の心の一本でございます。

*1:Your mother sucks cock in hell(テメエのおふくろは地獄で尺八してやがるぜ:平山夢明訳)

*2:実際はジャック・ニッチェマイク・オールドフィールドチューブラーベルズは無断借用されており、当時から問題になっていた。

*3:判決はマン側の敗訴