眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

日本映画空振り大三振 くたばれROOKIES/柳下毅一郎&江戸木純withくまちゃん

日本映画空振り大三振 ~くたばれ!ROOKIES (映画秘宝COLLECTION 41)

日本映画空振り大三振 ~くたばれ!ROOKIES (映画秘宝COLLECTION 41)

 

チルーさんが不敵な笑みとともに貸してくれた。アリガトウゴザイマス<(_ _)>

 

雑誌『映画秘宝』に連載されていた、ダメ邦画を身銭を切って観に行き、その映画のどこがダメなのか?ということを微に入り細に穿った対談集。

まあ、連載時から読んでたんだけどね。コレ。

 

本書のような悪しざまな批評を前にすると「そんな重箱の隅をつついてないで、何も考えないで見ればいいのよ!!」と怒り出す人がいる。

ここに乖離があって、”すべてを映画に委ねる”のと”思考停止する”とは全く違うものだ。どうもこのあたりに明確な溝があるのと同時に、「だったらあなたが作りなさいよ!!」という最も低レベルの反論が付随する*1のを考えると、監督自体の質が明らかに低下している。

 

これは小説の世界もそうなんだけど、読まないで書く人間がどれほど多いことか。

押井守が言っていたことだったけど、「現在はもうオリジナルは存在しない。過去の作品を踏襲しながら、自分自身のカラーを出していくしかない」。

庵野秀明タランティーノもこの延長線上にある。

でも、新人作家の言葉を見るにつけ、「小説をほとんど読みません。読書自体が嫌いです」と言い切る人間のなんと多いことか。狭い世界が表現の全てで、その狭い外側に無限に広がる世界があることを知らないのは、無知という犯罪だ。

映画の世界もそうで、ドヤ顔で出してくる”オリジナル”の何とみすぼらしいことだろう。

 

過去の傑作を踏まえながらも、世間のトレンドもあるし、技術的な進歩もある。そのうえでどう作品を構築するしていくのか?ということに敏感でないとねえ…… 。

80近いスコセッシがこれまでやってきたフィルム撮影を止め、そのうえ3D で『ヒューゴの不思議な発明』を発表したことを考えると、本書を監督した輩どもには猛省を促したい。

崔洋一、てめえのことだ!!

だからといって、テクノロジーに頼ればいいというわけでもない。

山崎貴紀里谷和明、それはお前らのことだからな!!

 

加えて言えば、映画製作というシステム自体が内包する構造的な欠陥も大きく足を引っ張っている。

例えば、製作費1億で映画を作るとする。

ここで1億円全部が映画製作に使われる、と考えているような能天気な人はいないと思うけど、実際問題として純粋に映画製作に使われる金額は半値6掛け程度だろう。

つまり、1億円なら映画製作に使われる費用は3000万ぐらい。

ほとんどすべての映画製作の現場でこうなっている。

なぜなら、広告会社が中抜きするからだ。しかも、マーケティングという非常にどうでもいいものに大金が費やされる。

その結果としてしわ寄せが脚本に行く。優秀な脚本化を雇うことが出来なくなり、期間も短くなり、最終的にはギャラの安い拙速な脚本家に仕事が沢山舞い込むことになるのだ。

そりゃ、いいものはできませんわな。

加えて、脚本家がひとりですべて作劇”しなければならない”という前時代的な発想も、大きく足を引っ張っている。一人の人間の力なんてたかが知れている。

だって、あの名作『カサブランカ』が名作たりえたのは、7人がかりで脚本を書いたからだしね。*2

 

ただ、こうやって罵声を浴びせられることは、逆に感謝するべきことだろう。

なぜなら、それだけの熱量をもって観賞した観客の偽らざる胸の内だからだ。

これを例として挙げていいのかどうかわからないが、『実写版:忍者ハットリくん』を見た後で、真剣に批評する気になれますか?ねえ、そこのアナタ。


香取慎吾 田中麗奈 NINxNIN_NINJA_HATTORI-KUN_2007.01 ...

 

だいたいにしてプロデューサーがシナリオを読めないという問題があり、役者たちが演技できず、監督が演出できず、脚本家がマトモなストーリー構築ができない、という時点で傑作ができるはずもない。まして、広告会社が製作費を無駄に中抜きするのならなおさらだ。

映画がただの娯楽の一つになってしまい、特別な体験ではなくなってしまって久しい。

映画監督になるためのハードルも随分下がった。

だからこそ、もっと映画製作の基礎的な部分を振り返るべきではないだろうか?

そのうってつけの教材がコレ。


宇多丸が『スクリプト・ドクターというお仕事』を語る - YouTube


宇多丸が『スクリプトドクター・リターンズ』を語る - YouTube

 

ウィークエンドシャッフル内で放送されたこのコーナーは、本当に珠玉の講義。

「邦画なんてダメ。洋画もハリウッドはダメだね」なんて言ってる連中の裏では、こういう貴い人たちが最後の一線を守り続けていることも頭に入れておかないと。

映画という代物に真摯であればこそ、少しでも良いものにしたい、という単純かつ根源的な欲求であり姿勢が見て取れるからだ。 

 

ダメな映画は必ずできる。

常に成功し続けることなんて不可能だ。だからこそ、その時最大の努力を払ってほしい。

サム・ペキンパージョニー・トー、そしてジョン・フランケンハイマー

成功作は歴史に残る傑作であると同時に、彼らの失敗作は核爆発級のド失敗。

それでも彼らが見捨てられないのは、その失敗に「やりきった」感があるからだ。

失敗から這い上がってチャンスをつかんだとき、観客は必ず拍手を送ってくれる。

観客というのは薄情だけど情が熱い。

映画監督なら、「オレを批判するなんてけしからん」ではなく、「だったら次の作品で見返してやるからな」という態度を取ってほしい。

 

そうやって復活した監督もいるわけだしね。

 

……そういうカワイげのある監督が、本書には存在しないというのが最大の問題かもしれんが。

 

【追記】

現在大ヒット中の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督ジェームズ・ガンも、『スリザー』がコケてしまい、スター監督の座から大転落し家庭崩壊。

ホントのどん底に叩き落されたが、今回見事に復活した。

そんなドン底の時期も俳優たちは彼を見捨てなかったことにグッとくる。(※詳しくは『スーパー!』の回参照。)

 

実写版『どろろ』の監督、塩田明彦も『映画秘宝』にボロクソにこきおろされて4年間も干されたが、そのとき自分の原点に立ち返り映画表現についてもう一度真摯に向きなおった。

それはこの本に納められている。

ちなみに『映画秘宝』はその姿勢を高く評価し、『どろろ』で叩きすぎたことについて謝罪した。

*1:ダウンタウン・松本氏や本広克行氏がその筆頭。好評以外を受け付けないという姿勢が、彼らの作品が成長しない最大の原因だ。

*2:もっとも、その代償としてなかなか脚本が仕上がらず、俳優たちは全体がどういうストーリーなのか分からないまま演じなければならなかった。イングリッド・バーグマンは晩年、初めて『カサブランカ』を最初から最後まで観賞して「こういう話だったのね。今初めて知ったわ」と言ったのは有名だ。