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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

殺しの烙印

日活100周年邦画クラシック GREAT20 殺しの烙印 HDリマスター版 [DVD]

日活100周年邦画クラシック GREAT20 殺しの烙印 HDリマスター版 [DVD]

 

 鈴木清順監督による問題作。

一見王道的なハードボイルド映画の体を取りながら、その実は”ハードボイルド映画”なるものの構造を解体していく”脱構築”映画という非常に奇妙かつ奇怪な映画。

その構造&手法としての脱構築については、町山智浩さんの名解説をご紹介。

この解説があったから、オイラはDVDを買ったんだけどね。


町山智浩の映画塾! 殺しの烙印 <予習編> 【WOWOW】#81 - YouTube


町山智浩の映画塾!殺しの烙印<復習編> 【WOWOW】#81 - YouTube

 

まさに”ザ・わけのわかんない映画”(笑)

 

映画全体の演出が一定でなく、ある個所ではハードボイルド風の無骨な演出なのに、次の瞬間には能天気なコメディ演出がなされていたり、芸術映画風の凝ったカットがあるかと思えば、日活印の無国籍アクション風味も混ざっていて……。

ふと気を抜くと、「一体オイラは何の映画を観てんだろう?」という気分になるトンデモない作品だ。

そりゃあ、日活の社長もキレる訳だ(笑)

マジメに見ていいんだか、ふざけてみていいんだかさっぱりわからないし、次の瞬間にどういう風に映画が変質するのか予想もつかない。展開が、という以前にこの映画自体の構造がまったく予想外のシロモノで、作品内に引き込まれたかと思うと放り出されるという……。

  

ただ、町山さんが解説で言っている通り、「ワケが分からないけど、面白いから始末が悪い」ので確かに困る(笑)

不思議な魅力というか、本当にワケわかんないにもかかわらず、何度も何度も見たくなる。

表現的にあっているのかどうかわからないけど、個人的にはこの映画の感触は安部公房の小説に似ている。特に思い出されるのが『燃え尽きた地図』だ。

燃えつきた地図 (新潮文庫)

燃えつきた地図 (新潮文庫)

 

空気感、というか手触りが、オイラの感覚では同じような気がする。

まあ、どの程度鈴木清純監督が安部公房のようなシュルレアリスムに傾倒していて、興味があるのかは分からないけれど、どうしてもこのテの映画を観ていると安部公房作品を想像してしまう。

 

それはさておき。

 

何度も同じ表現を使っている気がするが、とにかく訳が分かんない。

でも、この”ワケのわからなさ”を楽しんでいる自分がいることに、ちょっと驚く。

分からない人には分からないかもしれないが、訳が分からない=つまらない・面白くない、では決してない。

逆に、わかりやすくしようという作り手の試みが、作品自体を限りなくつまらないものにしている場合すらある。

特に今は、テレビドラマにしれが顕著だし、バラエティ番組だとまだヒドイくらいに、分かりやすくしよう症候群が蔓延している。

人気の朝ドラ『マッサン』もまるで「副音声かよ!!」とツッコみたくなるくらいに、心情を喋る喋る。たしかにエリーはかわいいが登場人物が全員ウザいこと極まりなく、ほとんど騒音公害のレベルだ。

バラエティはまだひどくて、常にテロップが出てスタジオゲストがワイプでしゃべり、とにかく過剰な親切サービスが犯罪レベル。電通博報堂というマーケティング屋どもがいかに一般視聴者をバカ呼ばわりしてるかわかろうというもの。

 

それに比べ、本作はとにかく観客を突き放す。

分からなかったら考えろ、まずは自分で答えを導き出せ。

間違っていてもそれは無駄ではない。

なぜなら、間違った答えを導き出すまでの過程と正しい答えに至る過程の二つを学べるからだ。

おしきせの分かりやすいお子様ランチ映画より、こういう「なんじゃこりゃ!?」な映画の方がオイラは好きだ。

まあ、好みというのは人それぞれだし、わかりやすい=程度が低い、ではないということも言っておきたい。

要するに、監督が何を表現したいのか?何を観客にぶつけたいのか?というコアな部分があるかないかが映画作品の質を決めている気がする。

なので、そういうものが全く見えてこない&もともとない、堤幸彦本広克行山崎貴の映画は総じてゴミという事になる。

まあ、こういう話はこのくらい。

 

個人的に、具流八郎という共同ペンネームによって作られた脚本がとてもよい。

この大人数でこねくり回した結果、アイディアが溢れすぎてひっくり返った(笑)という惨状はとてもとても面白い(笑)

だいたいにおいて一人の人間が考えつくアイディアなどというものは限度があるわけだし、複数の人間で脚本を書いてはならない、などという決まりもない。

なので、こういう脚本製作の方法論は確実に取り入れていくべきだろう。特に、自主製作映画や低予算映画の場合は非常に有効なはずだ。金がないのをアイディアでカバーする、という典型的な方法論だしね。あと、共同ペンネームにしておけば、ギャラの配分を等分にできて会計が楽という利点もある。なにより人材の出入り自由という最強のポイント。これを使わない手はない。

まあ、この『殺しの烙印』ではそれがあさっての方向に突っ走ったわけだが。

とにかく、脚本の中心人物である大和屋竺*1のもつ、殺し屋という架空の存在に対する気怠い憧憬が、本作全体のテイストを貫いている。彼がどの程度ハードボイルドなるものに詳しいのかは分からないけれど、このハードボイルドなるものの本質的な核をきちんと踏まえたうえでの解体&脱構築。アンニュイで気怠い雰囲気が奇妙にオシャレで、でも、とても滑稽。それが本作の奇怪な演出と混じり合って何とも言えない空気感を醸し出しながら、でもそれがドンピシャ。

 

何をどう言ったらいいかよく分からないけど、圧倒的な魅力にあふれた映画。

日活の看板を背負ったアクションスターだったころの宍戸錠も、タフ&ワイルドで超カッコイイし、個人的には銃の選定がモーゼルというとこにもグッとくる。

なんだ?この映画!?と言いたくなるのは間違いないけど、いやいや、ホント面白い。

 

まずはなんてったって、炊飯器のふたを開けて炊き立てのご飯の匂いを嗅いで恍惚とする宍戸錠のビジュアルだけで5億点ですよ(笑)

 

このド変態め!!(褒め言葉

*1:37年生まれ、93年没。脚本家、映画監督。代表作として『八月の濡れた砂』『野良猫ロック セックスハンター』など。テレビアニメでは『ルパン三世』初期シリーズの脚本家として傑作を世に送った。息子は脚本家の大和屋暁