眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

見えない都市/イタロ・カルヴィーノ

見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

 

イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの小説。

モンゴル帝国皇帝・フビライに対して、寵臣のマルコ・ポーロが想像の中の諸都市の光景を語る幻想的な作品です。

 

カルヴィーノという作家はSFにカテゴライズされることが多いのですが、サイエンスフィクションのSFというより、藤子F不二雄先生の”すこしふしぎ”なSFな感じ。

レ・コスミコミケ』での、ほわほわした奇妙な語り口で綴られる月と地球と進化の歴史を読むたびに、藤子F不二雄先生の絵柄で頭の中にイメージが広がります。

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)

レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)

 

 

 

さて。

 

 

小説というジャンルは大きく二つに分けられます。

ストーリーで読ませる小説と、構造で読ませる小説。

この二つです。

 

前者はどちらかというと人気作品やベストセラー、後者は少数の熱心なファンに支えられているという印象があります。

基本的に、本屋さんや図書館にある小説の大多数(日本の小説に限る)は、”ストーリーで読ませる小説”。

なので、小説=お話を読むもの、というのが常識です。

そうなってくると起承転結や3幕構成のような型ができてしまい、ストーリーの構造(お話の展開の仕方)が同じものになりがち。

もちろん、これは決して悪いことではないのですが、あえてそこに疑問を持ってみたグループがいました。

それが、作家レイモンド・クノーが主宰したポテンシャル文学工房*1(以下、ウーリポと表記)です。カルヴィーノ自身もこのウーリポに参加していました。

 

 本作『見えない都市』で用いられているのは、”直交ラテン方陣”という構造。

こう聞くと、読む前から「難しそうだからパス」ってなりそうですけど、要は数独みたいなものです。

数独はひとつのマスに書かれる数字が個として独立していながらも、縦や横の数字のならびという全体を見てみると、一定のルールや規則性があります。

それをそっくりそのまま小説の世界に当てはめたのが、この『見えない都市』。*2

話し手であるマルコ・ポーロと聞き手であるフビライとを、縦糸と横糸にしながらその交点に語られる様々な想像上の諸都市がある、というトリッキーな構造。

こんな風に書いてしまうと、「難しそうだし、よくわかんないからパス」ってなっちゃいそうですけど、ちょっと待ってくださいね。

この『見えない都市』はそういう構造的な部分は、一読してからわかるトリック的なもの。

実際読んでみると、物語としてのラインもすごくしっかりしています。

単純に、一話完結の短篇集として読んでも、十分以上に満足できることは間違いないです。

一話一話は短いし、それでいて硬質でかっちりとした、磨き抜かれた文章の美しさがあって……この本はあまりに好きすぎて、どれだけ褒めても言葉が足りない気がして、逆に何を書いたらいいかわからなくなってしまいます。

 

モンゴル帝国という、ユーラシア大陸を横断した巨大帝国での物語なので、オリエンタルな香りがすごく強くて、それが耽美的というかすごく磨き抜かれた文章表現とあいまって独特の香り立つような雰囲気。

読んでる間じゅう、溜息モノ。

ウットリです。

 

『見えない都市』というと、話の構造という部分ばかりがクローズアップされますが、実際のお話の部分も読み応え十分。

読み手の想像の翼を予期しない方向にはばたかせてくれる、というのが読書の楽しみ。

この本は、その期待に十二分に答えてくれるとてもステキな作品です。

 

イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』、オススメです。 

*1:OULIPO。ウーリポ、またはウリポとも。Ouvroir de littérature potentielleの略。詳細や文学的志向についてはリンクを参照。

*2:さらにそのパズル的な構造化を推し進めたのが『宿命の交わる城』。タロットカードの組み合わせという偶然性の高いパズル構造を効果的に用いた作品。