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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

ザ・ミッション/非情の掟

 

ザ・ミッション 非情の掟 [DVD]

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襲われた香港マフィアのボスの護衛のために集められた、5人のプロフェッショナル。

彼らは、このミッションを遂行できるのか?

物言わぬ男同士の絆が圧巻の、ジョニー・トー監督作品の傑作です。

 

ジョニー・トー監督の作品の中でも、最も人気のある作品。

位置づけとしては、後に撮られる『エグザイル/絆』へと至るプロトタイプみたいなものかな?実際に、本作に出演しているキャストの大半が『エグザイル/絆』に出てるし、ストーリー自体もほとんど一緒なところがあるし。

それはともかく。

この映画を見てまず最初にびっくりするのが、とにかく女っ気がない。

男達の物言わぬ友情だったり絆を描く、という事に関しては、先輩格であるジョン・ウー監督がまず思い浮かびます。でも、ウー監督がアメリカ映画的な熱っぽさで男の友情を描くのなら、トー監督の描き方は非常に冷たくて静かてフランス映画的。

合わせて、どっちの監督も女性を撮ることが苦手なのは有名な話。その苦手分野に関して試行錯誤するウー監督に対し、トー監督は最初から撮らないというトンデモない手段に。もののウワサによると、基本的に女優を撮影するということ自体に興味が薄いのだとか。

そんな人がメガホンをとってるので、右を向いても左を向いても男しかいないのも納得です。*1

 

さらにこの作品が熱狂的に受け入れられるのは、とにかく台詞が短い&少ない。

そもそも、集められた5人はプロフェッショナルなのでペラペラしゃべりません。最小限の言葉で意思疎通を図ります。

現実にプロを集めたら、もしかしたら綿密な打ち合わせをするかもしれないけど、映画的なリアリティという視点で見てると、最小限度の言葉しか発しない方がプロっぽく見えてくるという不思議。

もともと、トー監督作品は台詞が少ないのが特徴のひとつでもあるけれど、他作品と比べても明らかに少ないし、短い。

役者に場面のシチュエーションだけ告げて、台詞とかの制約をなるべく少なくしたうえで自由に演技させる、というメソッド的な演出をしてる、というのに加えて、出演している俳優が常連たちだから、「お前ら、細かく言わなくてもだいたいわかるだろ」なのかもしれません。

完全に役者が試されてますね。日本の俳優だとだいぶ厳しそう。

日本だと役者の育成に時間と手間をかけないというか、アイドルとかモデルとか明らかに演技経験がない人を主役にして作品を撮るのが当たり前になってます。

演技未経験の人間に芝居をさせるにもっとも手っ取り早いのは、台詞を喋らせること。

とりあえず台詞を喋らせとけば、芝居をしているように見えるし、作品自体が止まることなく進めていけます。でも、これをやってしまうと、確かに撮影は進むけど役者は成長しないし、作品自体のテンポも単調になりがち。それを補うためにどんどんとセリフが増えていって、かえって作品が説明主体のものになって演技どころじゃなくなってしまい……。

邦画のヒドい作品とか、どうしようもないドラマは大抵そういうのが原因。

考えてみてください。

日常会話って、そんなに説明的で長くしゃべったりしますか?しないですよね?

だいたいドラマとか映画で役者に求められるのは演技であった、台詞の暗記力じゃない。

長台詞を間違えずにしゃべる役者よりも、長台詞の内容を演技でもって自然な言葉で要約できる役者のほうが、個人的には魅力的に感じます。

 

香港映画は基本的に早撮りだそうなので、脚本というより演出メモみたいな状態で本番の撮影が始まるのがよくあるのだそう。そういう現場でもまれた役者陣の、熱量の低い落ち着いた芝居は圧倒的。演技を役者に考えさせて実際に演じさせる、というのはトー監督の基本的な演出だけど、本作ではキャラクターの造形から俳優たちにゆだねるという徹底ぶり。*2「お前らが考えたキャラクターだから、何をやってもお前ら自身。脚本なんか最低限で十分。あとはアドリブで何とかできるよな?」と言わんばかり(笑)

俳優たちを信頼している結果だろうし、それに応えて見せた俳優たちも素晴らしい。

特に、反目し合っていたある2人が、あることをきっかけにして信頼が生まれる瞬間の場面のさりげなさにグッときます。

グッときつつも、この男たちがどこか子どもっぽいんです。

同じような映画を撮る人にジョン・ウー監督がいますけど、ウー監督の作品に登場する男たちはもっとオトナというか、ここまで悪ガキっぽくない。

たぶんこの辺りは、影響を受けている映画の違いというかウー監督がハリウッド製のギャング映画に影響を受けているのに対して、トー監督はフランスのギャング映画に影響を受けているからかも。

だって、フレンチノワールの傑作『狼は天使の匂い』って、ものすごくトー監督作品と同じにおいがしてくるんだもん。

 

さて。

 

そのすぐ後に訪れるのが、有名なジャスコ銃撃戦。

台詞の全くない非常に静かなこのシークエンスの緊張感は圧倒的です。

その場面もそうなのですが、トー監督の映画って構図の作り方が上手い。

エレベーターや建物を縦に使った構図のタイトさは、チャカチャカ動く落ち着きのないアクション映画とは全く別物。ものすごく上手いです。

上手いついでに感心するのは、ロケハン。

閉店後のジャスコだとか、ショッピングモールの裏手側、繁華街からちょっと外れたコンビニなどなど……。監督の作品のほとんど全部がそうですけど、どこにでもある風景なのに、妙に映画的な場所をよく見つけてくるなあ。

 

正直、ストーリーの面では一本調子というか、最終的にヒネりはあるけど、単調という部類に入るのではないかと。ただ、この作品の場合は余計なものをそぎ落とした結果。

上映時間もたったの90分という手堅さ。

レンタルはされてるけど、DVDが廃盤なので再発されないかなあ、と心の底から思います。

 

【追記】

過去の『エグザイル/絆』評はコチラです。

megane-do.hatenablog.com

*1:とはいえ、本作は女性の出演が多い方。『エグザイル/絆』に至っては、端役を含め、3人しか女優は出てませんでした。

*2:本作の衣装はすべて俳優たちの私物だったりする。