眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

冷たい熱帯魚

 

冷たい熱帯魚 [DVD]

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実際の事件『埼玉愛犬家連続殺人事件』を元に、監督を奇才・園子温×脚本を『映画秘宝』デザイナーの高橋ヨシキで作られた衝撃のサスペンス映画。

 

映画『凶悪』と対で語られることが多いことが示すように、この映画もまた実録映画路線。ただ、『凶悪』がどちらかというとドキュメンタリータッチなのに比べて、『冷たい熱帯魚』はエンタメっぽいです。

なによりもまず、犯人である村田の存在が特徴的で印象的。

哲学者ハンナ・アーレントのこの言葉、

本当の悪は平凡な人間の行う悪

を具現化したようなキャラクターです。

演じているでんでんの風貌とも相まって本当にどこにでもいそうな雰囲気。「こういう人っているよね」と思わずにはいられません。でも、どこにでもいるような平凡な人間が行う悪にこそ悪の本質があるような気がします。

ハンナ・アーレント [DVD]
 

 

平凡であること。

普通であること。

そこに悪の本質がある、というのはこの映画に出てくる様々な風景が、代わりに物語っているような気がします。地方都市なら間違いなくどこにでもある、だれも見向きもしないような風景です。実録路線、と謡われていることと映画の最初に「これは実話である」と出てくる一文以上に、映画に強いリアリティをもたらしています。

 

平凡な悪の卑俗な欲望という非常に単純化された欲求と動機の恐ろしさとおぞましさ。

「シンプルに考える」というのの究極的なありかたが、たぶんこの映画の村田という存在。物事にためらいはないし、トラブルがあればなりふり構わない。他人を犠牲にすることに何の良心の呵責もない。成功する人間に必要なある意味での才能。

それを前にして飲み込まれていく社本の存在は、DVDのパッケージで明らかなようにS・ペキンパーの『わらの犬』。

わらの犬  HDリマスター版 [Blu-ray]

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描かれているのは殺人事件だけど、知らないうちに共犯関係になってしまった、っていうのは日常でありうることだけにちょっと怖いです。

 

映画の冒頭部分の壊れかけている家族の描写に、下重暁子『家族という病』を思い浮かべました。血の繋がりとか絆とか愛情と言ってみたところで、家族とは詰まるところ他人同士による運命共同体でしかない、というのが映画では妙に出ていて少しあざとい気が。この辺が実は園監督の作品が苦手な理由で、先妻の娘と再婚した妻との間が上手くいっていない、という人間関係ってこの物語の中に必要なのかな?と思ったり、思わなかったり……。

そういうあざとさがあんまり好きになれないなあ。

家族という病 (幻冬舎新書)

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ただ、2時間越えの映画にしては、後半から加速度的に長く感じました。

あと、わらの犬オマージュがオマージュというよりほとんどパクリに近い次元で、どんだけわらの犬が好きなんだと思ったり思わなかったり。あと、『タクシードライバー』とか。

 

人間の本質は悪だ、という性悪説映画の1本。

家族映画のよくあるオチに対するアンチテーゼめいたラストを、現代的、と見るか、あざとい、と見るかで評価が分かれそう。特に後半のスプラッター&ゴア描写は観る人を選びそうなトコロも。

観る前はもっとガツンとくる映画かなと思ったけど、いざ見終わると思ったよりも印象が薄くなってしまった気がします。

ちょっと残念。

登場するキャラクター、力の入っている所と入ってない所があからさまなのが一番の問題なのかなあ?キャラクターの個性がのっぺりしていて、イマイチ個性が立ってないように感じました。

でも、たぶんもう一度見たくなるんだろうなあ……。