眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

ビオレタ/寺地はるな

 

ビオレタ (一般書)

ビオレタ (一般書)

 

第四回ポプラ社小説新人賞受賞作。
帯に書いてあるあらすじを転載すると……

婚約者から突然別れを告げられた田中妙は、道端で大泣きしていたところを拾ってくれた菫さんが営む雑貨屋「ビオレタ」で働くことになる。そこは「棺桶」なる美しい箱を売る、少々風変わりな店。何事にも自信を持てなかった妙だが、ビオレタでの出会いを通し、少しずつ変わりはじめる。

このテのジャンルはあまり読まないし、どっちかというと苦手なジャンル。

でも、本屋さんで何となく気になっていて、ついに手に取ってみたのでした。

 

まず感じたのは、とにかく読みやすいこと。

文章のリズム感とかスピード感が自分の感覚に合うのか、すらすら読める。

すらすら読めるんだけど、描写にはしっかりしたリアリティがあって、ウソくさい感じがしない。物語の舞台になっている地方都市の情景がありありと浮かんできます。

日常の光景、っていうを文章にするのは簡単なようで難しいもの。頭の中にそれを無理なく浮かべさせてくれるのは、それだけ文章を磨きに磨いたのだろうな、なんていうことを「ほー」とか「はー」とか感心します。

これだけしっかりした文章なのに、押し付けがましくなくて、手触りはあくまで雑貨てきというかふんわりした感触。過剰ではないけれど、かといって不足もない。ほどよいシンプルさというか、無印良品とかを連想してしまいました。

 

加えて、独特の表現というか言葉の使い方が、ザ・寺地ワールド。

これが全体の中でちょうどいいアクセントになっていて、さらに読む勢いを加速させてくれます。ダレとはいいたくないけど、「ちょっと疲れてきたし、休憩しようかな」と思ったところにやってくる絶妙の寺地ワールド。

面白い感覚と、たくさんの表現の引き出しを持ってるユニークさが羨ましい。

 

で。

 

とても強く感じられるのが、女性の生き方とか幸せについて。

働いて、恋愛して、結婚して、子どもを産んで――。一般的にそれが女性の幸せというけど、この本の主人公は、働いて、の段階でつまずくし、恋愛と結婚に関しては婚約破棄という大アクシデントに見舞われる。

見舞われて初めて、それが自分にとって「幸せ」なのかな?と疑問を持つ。

当然、次に返ってくるのは「じゃあ、私にとっての幸せってなんだろう?」

主人公は女性で、語られる内容も視点も女性の側からだけど、でもこれって味方を変えれば同じことを男性も感じてるんじゃないかと思いました。

この「押し付けられる幸せ」というか「幸せにならなければならない」ことに対する、息の詰まるような閉塞感が、そういう場面では文章から滲み出してくる感じが、非常にリアルというか生々しく感じます。

 

すごく好感を持った小説ですけど、ちょっと気になるトコもチラホラ。

小川糸さんの『食堂かたつむり』ほどひどくはないけど、雑貨屋ビオレタはこんな商売で大丈夫なのか?と感じてしまいます。

飛ぶように売れる人気雑貨屋、っていうのは明らかにこの物語のテイストにあってないから論外としても、ちょっと商売についての生活感が足りないような印象が。

お店屋さんごっこ、というのは言い過ぎだけど、もうちょっと商売っ気があってもいいような気がする。と、書いておきながら、そっちに軸足を置くと菫さんのキャラクターが壊れてしまう気がするし、さじ加減が難しい。

 

あと、なんとなくの感じで、登場人物に生々しさがないような気も。

リアリティーが、とか、現実感が、という意味ではなくて、もしかしたら、文章がすごく整っているから、逆にキャラクターが無菌漂白されているように感じたのかも。

それでいてキャラクターの存在感はあるんだから、ちょっと不思議。

なんだろ、この違和感? 個人的な好みの問題なのかも。

実はこのテのジャンルの本が苦手なのは、そういう無菌漂白された清潔なキャラクターというのに違和感を感じてしまうから。ちょっとモヤモヤする。

 

なにはともあれ、普段なら読まないジャンルの本をふとした偶然で出会えて、しかもそれが”当たり”だったときの嬉しさ。

これだから、本屋巡りはやめられない。

色々あって読書から遠ざかってたけど、やっぱり読書は面白い。

もう一度読んでみたい、と反射的に思わせてくれる本。

キュートでガーリーな装丁も好き。