眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

ぼくは本屋のおやじさん/早川義夫

 

ぼくは本屋のおやじさん (ちくま文庫)

ぼくは本屋のおやじさん (ちくま文庫)

 

ロックグループ『ジャックス』のリーダー、早川義夫さんが音楽業界を引退して、書店を開店して経営していくまでを綴ったエッセイ。

文庫版では省かれてるけど、新書の時についていたシリーズ名は”就職しないで生きるには”。

ちなみにこれは、働かないで生きることではありません。

転記すると……

お店のつくり方、おしえます。

自分で納得できる暮らしがしたい、

そう考えて街に住みついた

熱血ヤング・マーチャントたちの

涙と笑いの仕事日記――

 要するに、自営のススメみたいなものですね。

 

作者の早川義夫さんについてはぜんぜん存じ上げなくて、この本を買って初めて知ったし、プロフィールを見て元・ミュージシャンだと知りました。

こういう歌を歌ってらっしゃったのですね。ご本人は「暗い曲ばっかり歌っていて」と書いてるけど、味がある歌声で結構スキです。(←偉そう)

www.youtube.com

 

さて。

 

この本がよくある”起業のススメ”みたいな本とあきらかに違うのは、この商売をやってよかった、という成功話がほとんどないところ。

例えば、最初の章見出しなんて『ぼくは商売に向いてない』。

好きなことを仕事にする、というのはすごく幸せなことのようだけど、実はとてもとても不幸なこと。

もし、その好きなことを仕事にしたことでそれが嫌いになったなら?こんなに不幸なことはないと思います。

好きなことを仕事にしてしまうと、趣味と仕事の境目がなくなるからやめた方がいい、という考え方もあります。その、好きな事へのこだわりが必ずしもそれを買ってくれる人の好みと一致するとは限らないからです。趣味は商売ではないけれど、商売は生活なので売れなくては困るのです。

どんなに強くこだわって素晴らしいものを作ったとしても、それが売れなくては商売として成り立たない。

そのあたりの葛藤が結構鬱々とした感じで書かれていて、自営業の世界の厳しさを見せてくれます。安易に起業すればいいとか書いてる新書の類より、すごく勉強になりますね。

 

ただ、そういう鬱々とした感じで書かれていることもそんなに捨てたモノじゃない。

自分が”コレ!!”と思ったものが売れないのはなんでだろうと考えるとき。

自分が”売りたくないなあ”と思ったものが売れてしまう時のガッカリ感。

個性的なお店を作りたいと思ったけど、生活のためにどこにでもあるようなお店にならざるを得ないとき。

そういうことへの葛藤は、商売をしているのなら(実際に商品売買しないような営業職も含めて)大なり小なり、そしてずっとついて回るもの。

誰しもが突き当たる壁だからこそ、こうして文章として書かれているのは、逆の意味で貴重な事のような気がします。だって、普通だったら、読者に読ませたくないことだしね。

 

店主が売りたい本だけをそろえた本屋さん、というのはなるほどお客さんにとっては迷惑な話。欲しい本がない、というのはお客にとっては悪い本屋。

早川さんが本の中で書いている「よい本屋さんはよいお客さんによって作られる」という文章が印象的。店主にとってのお店ではなくて、お店である以上はお客さんのためになくちゃいけない。商売のムズカシさですね。

それを考えると、作家で本屋さんをなさってる藤谷治さんはスゴイなあ。

藤谷治 - Wikipedia

 

最後に、心に残った文章を。

本が好きで本屋をはじめたけれど、本よりもまず、人間が好きではならなかった。

本よりも、本屋が好きな人は、本を配達してくれなどとは言わない。

しかし、本よりも、本の中身だけが好きな人は、牛乳のように配達してくれと言うのであろう。

他にも、商品の到着日や販売に関する苦労、万引きについてなど、本屋さんの悩みが盛りだくさん。

最近は街の本屋さんがどんどん少なくなっているからこそ、余計にぐっと入り込んでしまいました。語り口が柔らかくて、すごく読みやすい本です。

でも、本屋さんは楽じゃないんだなあ。それが一番の発見かな?

 

【追記】

本屋さんの本、といえばこっちも。