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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

野火

 

野火 [DVD]

野火 [DVD]

 

『レイテ戦記』で知られる大岡昇平の原作を元に、『鉄男』の塚本晋也が監督主演した映画。塚本監督が完全自主制作体制で制作したことでも話題になりました。

 

そろそろ敗戦の日終戦記念日ではない)も近いので、前々から見ようと思っていた作品。地元では確か上映されていなかったような気がしますが、ホントのところはどうだか……。

 

それはともかくとして。

 

とにかくこの映画、非常に突き刺さると同時に、見ていて決して気分の良い作品ではありません。

フィリピン戦線での地獄を描いた映画、といえばただそれだけなのです。でも、そのただそれだけをきちんと描いた映画が今までなかった、という現実。

例えば『永遠の0』や『僕は君のためにこそ死にに行く』という、脳みそが腐った右翼礼賛映画に大規模資本が投じられ、戦争がいかに悲惨で、やってはならないものなのか、ということを描いた本作が自主制作というこの現実。

無数に言いたいことはあるけれど、まあこのあたりで納めておくことにします。

 

主人公である田村一等兵を取り巻く状況はまさに地獄。その一言に尽きます。

まがまがしいまでの大自然の中、敵がどこにいるかもわからないだけでなく、味方がどこにいるのか、そして自分はどこに向かうのか、何よりまずこの戦争は今(大局的か局地的なのかを問わず)勝っているのか、負けているのかも分からない。

そんな状況下。

補給もなく、軍の連携もなく、情報もなく、ただただやみくもに兵士だけが死んでいく。日本軍という右寄りの人が言うところの『皇軍』というものの実態がほとんど即物的に描かれます。

日新日露の時から日本軍が抱えていた問題点に、人員はあくまで数であるという考え方があります。当時から言われていた、「兵士は1銭5厘」であるとか「赤紙一枚でいくらでも集められる」といった考え方。

それは日本が無条件降伏するその瞬間まで疑いのない常識として通用していました。

つまり、それはどういうことか?

結論から言えば、戦う前から日本は負けへとただひたすらに自ら進んでいたということです。英霊と言えば聞こえはいいけれど、その実、上層部の全く根拠のない野放図な戦略の結果、末端の兵隊は戦うこともなく、ただただ自滅的に死んでいきました。

「兵隊はいくらでも補充ができる」

そんな考えがまかり通った結果です。

それは当時だけでなく今現在も蔓延しています。

例えば、ブラック企業に代表されるような。今現在、オリンピックとかいうだれも望んでいないお祭り騒ぎに向かって、政治家の先生方はご執心のようですが、そこに投じられる労働力の構図はまさにこの作品に登場する末端の兵隊そのもの。

日本軍、というよりも日本的組織が本来的に内包する重大な欠点は未だ全く改善の兆しが見えません。

ただただ意味もなく、人間としての一線を越えさせられ、元のような人間としての両親を徹底的に破壊される。それに対して、上の人間はあくまでも無関心。

地獄を見るのは、末端にいる大多数の人間です。

見ていて非常に不快な映画ではあるけれども、同時に戦争というものが如何に人間を破壊しつくすものなのか、ということを直球に描いた作品。

 

世情がどんどんきな臭くなるからこそ、こういう映画が必要なんだ、そんな風に思いました。