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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

ライト・テイクス・アス~ブラックメタル暗黒史~

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タイトルの意味はその光が我らを導くまで。

80年代末から90年代にかけてノルウェーで誕生したブラックメタルと呼ばれる音楽。

その興亡と、血みどろとしか形容しようのない壮絶な内部抗争の模様に迫ったドキュメンタリー映画

 

ブラックメタルと言ったところで非常にアンダーグラウンドな音楽ジャンルなので、知らない人の方が大多数と思います。ちなみに、メタル大好きな眼鏡堂が、数あるメタルのサブジャンルの中で一番くらいに大好きなのがこのブラックメタル

音楽上の特徴としては、

速いテンポのドラムに、金切り声のようなボーカル、音を強めに歪ませたギターでのトレモロピッキング、宗教的で荘厳なアレンジなどを特徴とする。歌詞の内容には、サタニズム及び黒魔術への傾倒といった、反キリストを強く打ち出したり含むバンドが多くあり、ブラックメタルバンドの中には、ペイガニズムなどを掲げるものも多い。

というのをウィキペディアから抜粋してみました。

文章だけ読んでも全くわからないと思うので、ブラックメタルを代表するバンド、『エンペラー』の楽曲をドーゾ!

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とはいえ、ブラックメタルというと必ず出てくるのがアンチキリストと悪魔崇拝

あだ、このアンチキリスト=悪魔崇拝がちょっと複雑なところがあってねえ…。

 

ま、それはさておき。

 

本作の語り手は主に二人。

ノーヴェジアン・ブラックメタルノルウェー産のブラックメタルのこと)の嚆矢のひとつである『ダークスローン』。そのドラマーでリーダーのギルブ。

同じくノーヴェジアン・ブラックメタル初期から活躍している『バーズム』のヴァーグ。

そのほかにも『メイヘム』のドラマーであるヘルハマーや、『イモータル』のアッバス、『サテリコン』のサティアーなどが登場し、ブラックメタルファンは小躍りするような豪華ラインナップです。もちろん、「ブラックメタルってなんじゃらほい」という一般ピープルは置いてけぼりです。

正直言って、このドキュメンタリーはブラックメタルファンにとっては正直退屈です。

なぜなら、本作に出てくるエピソードの数々は完全に語りつくされた感があるからです。

 

『メイヘム』のボーカルだったデッドが散弾銃で自殺し、その第一発見者だったユーロニモスが現場を撮影し、それをアルバムジャケットに使った、というくだりは観客におぞましさを与えるに十分。でも、これにはさらに話があって、ユーロニモスは飛び散ったデッドの脳みそをスープに混ぜて食べた上に、デッドの頭蓋骨の破片を集めてネックレスにしてライブに出るなどのにわかには信じがたいエピソードがくっつきます。

さすがにここまでくると制作者側もカットせざるをえないわな。

その後は、ユーロニモスを中心にした政治思想結社としての「インナーサークル」が結成され、徐々にブラックメタルシーンでの権力争いが激しさを増していきます。

具体的にどうなったかというと、反キリスト的な思想が先鋭化しすぎて犯罪行為や暴力行為に手を染めるメンバーが続出。事実として(当時を回想するメンバーは否定的な発言をしているものの)より重い犯罪を犯した者が権力を握れる、という狂った状況に突入していきます。

映画の中ではヴァーグの放火と殺人にしか触れられてませんが、インナーサークルに入っていたバンドのメンバーが起こした犯罪についてはこんな感じ。ちなみに『』がバンド名です。*1

  • 『エンペラー』のギタリスト、サモスが教会に放火
  • 『エンペラー』のドラマー、ファウストがゲイの男性を刺殺
  • 『エンペラー』のベース、ツォートが窃盗と暴力事件を起こす
  • インナーサークルのメンバーの指示により、イギリスのゴシックメタルバンド『パラダイスロスト』のツアーバスが襲撃される。
  • インナーサークルのメンバーの指示により、スウェーデンデスメタルバンド『セリオン』のリーダーであるクリストフェル・ユンソンの家が放火される。クリストフェル・ユンソンはツアー中のため自宅にはいなかった。

どんどんと血まみれの権力闘争の泥沼にはまっていく中で、インナーサークル内の権力争いはさらに激化。ユーロニモスとヴァーグが対立を深めていき、その溝は埋められなうものになっていきました。

この闘争を目の当たりにして「ついていけねえや」と距離を置き始めたのがギルブ。

結果的にはこれは彼にとって正しい判断となったのですが、それは後々の話。

激化する権力闘争はヴァーグがユーロニモスを殺害し、逮捕されるということで幕を下ろし、インナーサークルも解散。併せて、多くのブラックメタルミュージシャンが警察の厳しい監視下に置かれることになりました。

 

ただ、これでブラックメタルが死に絶えたかというとそうではなく、このブラックメタルというジャンルは世界中に飛び火し、今やアンダーグラウンドとはいえちょっと無視できない巨大なマーケットを形作り、日々進化しています。

だって、今じゃニコラス・ケイジの息子もブラックメタルバンドやってるし!

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アンダーグラウンドミュージックであることの定めからか、初期のブラックメタルは音質が悪ければ悪いほどいいという奇妙な価値観がありましたが、それも今や昔。

非常に高い音質でレコーディングするバンドが多数登場。そそて、精神性としての反キリストというのもずいぶん薄くなっていて、どちらかというと土着信仰や中世ヨーロッパの暗黒面、異端文学などに影響を感じることが多くなってきたような気がします。

北欧の限られた地域だけでなく、明らかにキリスト教圏ではない地域にもブラックメタルは誕生しています。

例えば、

エセリアル・シン(日本)

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ソニック(台湾)

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ダークミラー・オヴ・トラジェディー(韓国)

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アンペラス・アレゴー(マダガスカル

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さて、ここからが本題(※この時点で約2400文字)

 

ブラックメタルというとすぐにでてくる反キリスト主義。

ただ、この反キリスト主義というくくりがクセモノで、すぐに悪魔崇拝とむすびつけられてしまうのですが、それはちょっと待ってほしい。

北欧でなぜブラックメタルのようなキリスト教へのアンチテーゼとしての音楽が誕生したのか、というのを眼鏡堂なりに考えてみるとこうなります。

  • 国民のほぼすべてがキリスト教徒だが信仰心が篤くはない。
  • 独自の文化(バイキング文化)があったがキリスト教の布教によって異端文化として弾圧され消されていった歴史的背景があり、自国の旧文化に対して興味を持つ若者が多い。
  • 宗教と絡め、社会福祉が非常に手厚く国民全体が総中産階級化しているが、それによる弊害として多様な価値観が認められず、閉塞感が強く感じられる。

怒りや不満や孤独や暴力性のはけ口としての音楽というのはパンクロックをはじめ、いろんなものの初期衝動に繋がるわけで、それがブラックメタルにも通ずるところがあった、という。ただ、それにしたところで、思想的に先鋭化するあまり現実の暴力行為や犯罪行為まで繋がるのはいきすぎだと思いました。キリスト教への攻撃の一端として教会に放火したのはいいとして(※よくありません)、燃やした教会がキリスト教布教以前の歴史的遺産だったりしていて、ちゃんと調べて燃やせよ!と思ったりもしました。(※放火は重大犯罪です)

 

んで、ブラックメタル誕生のもとになったバンドが全く触れられていないあたりも、この映画がどうにも歯がゆいというか、初心者は置いてけぼりだし、ブラックメタルファンは物足りないし…。

ちなみに、そのバンドというのがイギリスのバンド『ヴェノム』

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お聞きになればわかるように、ド下手な演奏、極悪な音質、訳の分からないスピード感、悪魔崇拝、地獄、反キリスト教等一般的に「不道徳」とされる言葉で彩られた歌詞と「キタコレ(*‘∀‘)」な要素が満載。そのうえ、曲名が「ブラックメタル」とくれば言わずもがな。

ただ、このバンド、悪魔崇拝や反キリストを散々あおっておきながら当人たちは完全にギャグでやっているという(笑)

マジに見えるが実は冗談という一番タチの悪いなにかに北欧ブラックメタルのミュージシャンたちはひっかかったようで…。

 

んでもって、現在のブラックメタルシーン。

メタルの宿命なのか、ブラックメタルもどんどんと細分化が進み、星の数ほどバンドが生まれそして消えています。いいことなのか悪いことなのかはわかりませんが、かつてのような狂信的なバンドはなく、”ファッションブラックメタル”みたいな、「ブラックメタルと言えばこういう格好をするんでしょ」的なバンドが大多数で、それはそれで平和でいいと思ったりします。ただその一方、反キリストの価値観がさらに先鋭化、反ユダヤやナチズム礼賛を前面に押し出すナショナル・ソーシャリスト・ブラックメタルが誕生したりと、きな臭さには事欠きません。

まあ、あくまで音楽は音楽なので個人の趣味と言ってしまえばそれまで。

でも、北欧のキリスト教布教に至る歴史をや世界のグローバル化などとともに、その国独自の文化から生じたなんらかのもの、というものに対していろいろ考えるものが出てきます。商業主義へのアンチテーゼとして生まれたブラックメタルが、発祥の地であるノルウェーの音楽チャートで1位を取るという現状。*2

細分化されるブラックメタルの中で、この商業主義への反発を推し進めているのが原理主義的なブラックメタルであるプリミティブ・ブラックメタルや、より暗鬱でニヒリスティックな世界観、薬物や鬱による自殺などをテーマにしたデプレッシヴ・ブラックメタル。とはいえ、ほとんどのブラックメタルバンドは「売れたい!」と思っているわけで、なかなか世の中はうまくいかないものだなあと思う次第。商業主義を否定したらミュージシャンとして生活できないわけだし、どんなに熱心に悪魔を崇拝したところで、貯金通帳の残高は増えないわけで。この細分化と新たなるサブジャンルの誕生というのでにわかには信じがたいことも起きていて、その代表がクリスチャン・ブラックメタルという代物。反キリストのブラックメタルキリスト教賛美の敬虔なキリスト信仰を合体融合させるという「一体お前はどっちの味方なんだ?」と問いただしたくなるようなジャンルも生まれ、ブラックメタルファンの失笑を買いました。

 

そうは言いながらも、自国の土着的な文化や神話について着目するきっかけとしては、たとえ形はどうあれ、ブラックメタルのもたらした意味はあったと思います。キリスト教化がはたして文化的な面で正しいと言い切れるものであるのか?という点も含めて。

もちろん、本作に登場するミュージシャンたちが犯した行為は許されるものではありませんが。

 

ちなみに、眼鏡堂は反キリスト=土着信仰(ペイガニズム)という図式を思いつき、「そうだ、民謡のメロディーやリズムを10倍速にしてマイナー調にアレンジして、歌詞は上田秋成雨月物語から拾ってけば、日本独自のブラックメタルができんじゃね?」という考えにいたりました。

ちなみに、やりません。以上、おわり。

 

【追記】

その後の『ダークスローン』のギルブさん。

数合わせで町議会議員選挙に立候補させられ、選挙ポスターに「オレに投票するな」と書いたにもかかわらず、うっかり当選してしまう。なお、任期は4年。

karapaia.com

 

その後の『バーズム』ヴァーグさん。

刑務所に収監中、母親がヴァーグの印税をIRAアイルランド共和国軍)だかに横流ししてテロを支援していたことが判明して逮捕される。

仮釈放中に脱走しようとして逮捕されたり、すったもんだの末、2009年に出所し保護観察処分となる。ちなみに出所翌日、ヘードマルク県ヴォーレルにある教会が何者かによって放火される事件が発生。さっそく警察に疑われる。

*1:『エンペラー』のメンバーで、唯一何の犯罪にも関わらなかったのがボーカルのイーサーン。唯一シャバに残された彼はバンドメンバーの出所を待つ間に一念発起、真面目な人なので徹底的に音楽理論の勉強と楽器演奏のスキル向上に打ち込み、2002年12月出身地であるノドデンから文化賞を贈られた。

*2:ノルウェーの『ディム・ボガー』が1位をゲット。彼らの活躍はそれだけにとどまらず、その年のFNS歌謡祭てきな番組にも出演、ノルウェー王室関係者の前でライブ演奏するに至る。なお、非公式な噂では王女がディム・ボガーの大ファンらしい。