眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

うつろ舟/澁澤龍彦

 

 仏文学者で翻訳家、そして小説家でもある澁澤龍彦

その澁澤龍彦がキャラクターとして登場するアニメ映画『文豪ストレイドッグス デッドアップル』の公開を記念した、眼鏡堂書店プレゼンツのマンスリー・ドラコニア・フェスティバル(月間・大★澁澤龍彦まつり)。

第2回目となる今回は、映画内に登場する澁澤龍彦、そのキービジュアルとして後期の代表作『うつろ舟』を取り上げます。

 

 

あらすじとして、

常陸の国のはらどまりの浜に流れ着いたガラス張りの<うつろ舟>。その中には、一個の筥(はこ)とともに閉じ込められていた。そして繰り広げられる少年との夢幻的な交歓――古典に題材をとりながらもそれを自由自在に組み換え、さらに美しくも妖しい一つの<球体幻想>として結晶させた。

 

そもそも、”うつろ舟”っていうのはなんじゃろな?ということですが、オカルト好きorUFO好きならみんな知ってる江戸時代のUFO伝承のこと。

(詳しくはコチラ→虚舟 - Wikipedia

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そのうつろ舟の伝承を中心にした幻想譚の小説ですが、古代インドから比叡山に話が飛んだり、現代日本が舞台になったりと、非常に多面的な物語の輝きを見せる作品です。

あらすじにも書いたとおり、物語の根本をなすのは古典からの引用。

あくまでそれを中心に据えつつ、語り手や物語のレイヤーが幾層にも折り重なっていて短編ながら重層的な物語空間を構築しながらも、決して曖昧になることなく”うつろ舟”という表題に相応しいガラスの様な透明感を維持しています。

この多層的な物語構造というのは澁澤作品、特に後期の小説には欠かせない要素。

物語の語り手である登場人物としての主人公、作者という語り手、原点となる古典の解説者としての作者という語り手、など様々な語り手の人称が折り重なります。

ファンにとってはそれが「待ってました!」なのですが、なじみのない人には戸惑うらしいです。要するに「小説なのか評論なのかわからない」という感想に代表されるような。

これは澁澤さん自身も広言しているように、花田清輝の作品の影響。花田作品で言うと一番近いのは『小説平家』や『室町小説集』。澁澤作品をきっかけに、こういった作家の小説も読んでもらいたいなーと眼鏡堂は思うのです。

 

題材が題材なのでオカルト寄りの小説なのかと思いきや、そこは澁澤龍彦

エロティックなシーンや、グロテスクなシーンが登場するにもかかわらず、硬質で、透明感と清潔感のある簡潔な筆致で描かれるので、薄暗さがなく、さかしまに明るいにもかかわらずまるで夢のような印象を読み手に強く与えてくれます。

日本の古典を題材にすると、人情ものとか何か教訓めいたものに帰着しがちになるのに、この小説に限らず澁澤作品にそういったものはまったくなし。

純粋に物語としての面白さ、ストーリーとかキャラクターの深みとかよりも、物語そのものの構造の面白さを味わうことのできる一作です。