眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

立喰師列伝

立喰師列伝 通常版 [DVD]

立喰師列伝 通常版 [DVD]

 

攻殻機動隊』や『ガルムウォーズ』などで知られる押井守監督によるアニメ作品。

あらすじをざっと紹介すると、

戦後から現代に至り日本に存在したとされる「立喰師」に関する資料、伝承などをまとめ、その実態に迫らんとする研究書であるという設定で書かれている原作に基づいたアニメ作品。なお、原作者は監督である押井守本人。

こうやってwikiから引っ張りつつ、補足の説明を少々加えてみたのですが、まったくもってあらすじの体をなしてねえな。

でも、実際にご覧になった方は重々承知のことかと思いますが、本作『立喰師列伝』には起承転結的な明確なストーリーラインはありません。どっちかというと、ドキュメンタリー的な……いや、フェイクドキュメンタリー的な手法によって作られた作品であるように感じました。その、虚構と現実の見事なまでの融合具合が本作の魅力であり、眼鏡堂が一番面白いと思った部分でもあります。

 

で。

まずは”立喰師”ってのは何じゃろな?という話から。

当然のように、これは押井守監督による架空の職業(?)で、これまたwikiによると、

押井の「もし仕事を辞めたらこんなことをしてみたい」という妄想から生まれた架空の職業。飲食店で話術や奇行など様々な手段を用いて店員を圧倒し、その隙に飲食代金を支払わずに店を出る者のこと。またライバル店を潰すために兵隊として雇われることもある。その手法は暴力や恫喝を用いず、一種の芸の域に達しており、その点が単なる食い逃げ・無銭飲食とは異なる。

という輩で、これまでにも、例えば『うる星やつら』とかにもストーリーとは無関係にこの立喰師が登場したりしていました。それを踏まえると、本作『立喰師列伝』はその集大成といっても過言ではありません。

 

んでもって、なにゆえにこの作品が作られることになったのかな?というと、それはこんな理由から。

石川光久が「もしイノセンスカンヌ国際映画祭で賞を取れなかったら、押井さんに好きな映画を1本撮らせる」と言ったのがこの映画をつくる契機になったという話もある。

押井守ファンなら、押井監督に好き勝手に映画を作らせたらどんな大惨事になるか、よくよくご存じのことかと思います。*1

でも、そこは『天使のたまご』という前科を知る関係者は、押井守監督にくぎを刺しました。予算を絞るという無言の圧力でもって。

しかし、そこは天下の押井守。フルCGで予算を圧縮、なおかつ出演陣は素人を使うことでそんな無言の圧力に抵抗しました。素人、っていうかアニメ関係者と、娘の旦那、そして旦那の友人たちというすばらしいメンツです。

そんなメンツがCGによる紙人形劇のような動きで展開する画面構成に、鬼才・押井守の真骨頂を垣間見た気がします。

 

終戦から、安保闘争、万博をへて現在へと至る現実の縦糸に対して、立喰師たちの織り成す架空の横糸とが絡み合い、なおかつそれそのもの自体が立喰師研究のフィールドワークのフェイクドキュメンタリーであるということが、前にも書きましたが虚構と現実の間をあいまいにさせていき、それが「もしかしたら自分が見ていないだけで立喰師という人たちが存在しているのかもしれない」という奇妙なリアリティを生み出しています。

鑑賞していて思ったのは、安部公房の一連の作品。例えば『箱男』のように、それそのものは絶対的に非現実的な存在であるにもかかわらず、それが作品という領域に入ると、もしかしたら身の回りにある現実に箱男が存在するかもしれない、というリアリティに陥る。そんな風に思いました。

併せて、戦後から現在に至るまでの食文化の変遷が(正確ではないにせよ)描かれていることも興味深いところでした。屋台で食事を提供するということが外食産業という膨大な利益をもたらすフィールドに変化していくのに伴い、立喰師の存在意義も変化していくのが面白かったです。

加えて、引用される作品群、例えば押井守監督の作風である衒学趣味の象徴でもある吉本隆明をはじめ、村上春樹の『パン屋再襲撃』やブローティガンの『バビロンを夢見て』など、100%押井守とでもいうべき好き勝手に作った感が全開で、押井ファンの眼鏡堂としては非常に楽しめた作品でした。

とはいえ、あまりにも作家性が強い作品なので万人に勧められるかというと、これはチョット……。そもそも「立喰師って無銭飲食じゃないの?」って一蹴されてしまうと、それ以上の話ができなくなるしねえ……。まあ、そこを面白いと感じられるかどうかが境目というか。あと、この紙人形劇風のビジュアルも好みが分かれそう。あと、登場人物をどれだけ知ってるのかで面白さの度合いが変わってくるというのも、一見さんには厳しいかも。

まあ、何はともあれ100%押井守印の怪作。改めて見返してみると、非常に楽しめました。特に、ジブリのプロデューサー・鈴木敏夫を立ち食いそばの丼で撲殺するシーンは見れば見るほど、そのしょうもなさと押井監督の恨みの深さに失笑させられます。以上、おわり。

 

【追記1】

今回引用した作品群がコチラ。

天使のたまご [DVD]

天使のたまご [DVD]

 
箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 
吉本隆明全集: 1977‐1979 (第16巻)

吉本隆明全集: 1977‐1979 (第16巻)

 
新装版 パン屋再襲撃 (文春文庫)

新装版 パン屋再襲撃 (文春文庫)

 

 

【追記2】

天使のたまご』がそうであったように、『立喰師列伝』も興行成績で大コケ。しかし、コアな押井ファンには好評であったようで、実写作品として『真・女立喰師列伝』が作られましたが、案の定、予算はガッチリ絞られた模様。

 

 

 

 

 

*1:かつて、押井監督の作家性を全開にしたアニメ映画『天使のたまご』を作った際、あまりの前衛性と難解さに興行成績が大コケ。それから数年間業界を干されました。なお、この時生活のためにスタジオジブリに籍を置いたことで、あやうく駿の後継者にされそうになりました。