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積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

シュワルツェネッガー主義/てらさわホーク

シュワルツェネッガー主義

シュワルツェネッガー主義

 

映画俳優にして元・カリフォルニア州知事でもあったアーノルド・シュワルツェネッガーについての評伝というか、評論本。彼の生い立ちから現在に至るまでのまるでジェットコースターのような人生模様を、 笑いあり涙ありで振り返ります。

 

と、いうことでシュワルツェネッガーですよ、みなさん。

シュワルツェネッガーといえば、筋肉アクションスターであるのは当然のことして、お茶の間のアイドルであり、ちちんブイブイであり、ヤカン体操の人なのです。*1


アーノルド・シュワルツェネッガー/Arnold Schwarzenegger アリナミンV 1


カップヌードル やかん体操 シュワルツネッガー.mpg

 

すみません。少々取り乱しました。

とはいえ、シュワルツェネッガーという”凄い身体と凄い顔をして、おかしな英語を喋るこの男の何に我々は魅かれるのか?”という問いかけに、アナタはどう答えますか?

なお、著者のてらさわホークさんは「わかりません」と答えました。*2

とにかく、あまりにも過剰なこの男の存在に回答を導き出すことができず、ただただ圧倒されるばかりという。

 

彼を語るにあたって、比較対象として欠かすことのできない存在が、盟友でもあるシルベスター・スタローン。スタローンと比較することで、シュワルツェネッガーの特異性がより際立つのです。

まずは初期キャリア(初のヒット作を手に入れるまで)について。スタローンが何とか映画業界でのキャリアをつなぐためにポルノ映画にまで出演していた*3にも関わらず、シュワルツェネッガーには出演作を多少なりとも選ぶ余裕がありました。なぜなら、彼の場合、単なる無名の俳優の卵、ではなかったらからです。

今ではもう常識の範疇に入りますが、シュワルツェネッガーといえばミスター・ユニバース、そしてミスター・オリンピアの二つの称号を若くして獲得したボディビル界の伝説的存在*4。なので、演技力はともかくとして、既に持ち得ているネームバリューは相当なものがありました。なので、それなりに出演作を選んでいる余裕というものがあったのです。

 

そんなこんなでシュワルツェネッガーにとって最初のヒット作となるのが『コナン・ザ・グレート』。身体のデカい筋肉ダルマが終始ふんどし一丁でダンビラを振り回す映画ボディビルの世界チャンピオンの鋼のような肉体が、本作の圧倒的な存在感であると同時に唯一といっていい存在意義でもあるのでした。とにかく、その強烈な存在感の肉体という唯一無二のキャラクターを持つシュワルツェネッガーはこうしてスターへの階段を駆け上がっていったのでした。ちなみに、この『コナン・ザ・グレート』より前にスタローンは『ロッキー』の脚本と主演によってスターの階段を駆け上がったのでした。

とにもかくにも、その特異な肉体を生かしての存在感は多数の映画監督にインスピレーションを与えたらしく、ジェームズ・キャメロンターミネーター』で大多数の人が知るところの存在となります。しかし、真の意味でシュワルツェネッガーが確立するのが名作『コマンド―』。この作品でシュワルツェネッガーは他の誰にもまねのできない独自の演技理論を確立します。それが”緊張と緩和”理論。俗に、”人を殺して捨て台詞”と呼ばれる演技理論?なのです。

これは、過剰なまでの暴力を与えることで観客を緊張させ、しかしその緊張感は万人向けではないので、何か面白い捨て台詞をいうことで緊張を緩和させて観客を楽しませるという、こうして文字に起こしてみても「一体お前は何を言っているんだ?」としか言いようのないシロモノです。

とにかく、シュワルツェネッガーといえば、人を殺して捨て台詞。それは今日まで続くシュワルツェネッガーのキャラクターです。なお、その捨て台詞があまりにも観客を困惑させるので、シュワルツェネッガーのアホ台詞160選という動画まで作られる始末。

あと、顔芸。

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そんなこんなでアクションスターの地位も盤石と思えたシュワルツェネッガーでしたが、大作を投じた『ラスト・アクション・ヒーロー』が大コケ*5。一旦ここでシュワルツェネッガーは映画界に見切りをつけ、政治の世界に邁進していくのでした。

 

ここからちょっと余談。

スタローンが筋肉アクション一辺倒ではないことを証明しようと、コメディ映画に出演してみたりしたのですが、この『刑事ジョー・ママにお手上げ』は全く誰も得をしないどころか、オムツ姿のスタローンというファンはとても直視できない凄惨なシロモノに仕上がりました。

一方のシュワルツェネッガーはというと、『ゴーストバスターズ』の監督であるアイヴァン・ライトマンと組んで『ツインズ』『キンダガートン・コップ』『ツインズ』などのコメディに出演。アクションと筋肉だけの俳優ではないことを世間に見せつけた、のはいいのですが、正直それがうまくいっているとは言い難いのがツラいところ。どれもこれも出オチ極まりないし、出オチ以上のことが起きるわけでもないしねえ……。

 

閑話休題

 

これもまた皆さんご存知の通り、政界に打って出たシュワルツェネッガーカリフォルニア州知事に就任。2期7年の任期を勤め上げたのですが、総合的にはあまり好意的な評価がないのも事実。まあ、増税なき財政再建を打ち出したものの、結局財政再建はなされないまま赤字だけが膨れる結果に。とはいえ好意的な評価を受けたものとしては、オバマ・ケアに先駆けた国民皆保険制度への取り組みや、公立学校に対する肥満防止と健康増進への取り組み、アリゾナ州で成立可決された人種差別的法案への拒否公言などがあります。

ただそれでも、度重なるセクハラ騒動に加え、出入りの家政婦さんとの間の隠し子騒動が奥さんのマリア・シュライバーケネディ大統領の姪)の堪忍袋の緒を切ってしまい、離婚へ。当時は憲法を改正して大統領に!といわれていたものでしたが、ここに政治家としての夢は完全に断たれたのでした。そのうえ、慰謝料もがっつり取られたわけで。

 

そんなわけで、『エクスペンダブルズ』ではサプライズ出演で笑っていられたシュワルツェネッガーも、ことここにきて「大統領になるから忙しい」とは言ってられない崖っぷち。そこに手を差し伸べる盟友・スタローン。

まあ、スタローンもまたキャリアが崖っぷちに追い込まれるも『ロッキー・ザ・ファイナル』と『ランボー/最後の戦場』で復活、かつてのライバルやアクション映画仲間を集めたどんちゃん騒ぎ映画『エクスペンダブルズ』をブチ上げたりして第一線へと帰ってきたのでした。まあ、スタローンの場合は映画作家として稀有な腕前をもっているからこそ、俳優一本でキャリアを考えなくてもいいというのがあるけどね。

そんなこんなで『エクスペンダブルズ2』で映画業界に復帰したシュワルツェネッガー。正直、十把一絡げの扱いなうえにシリーズも大ヒットとは言えませんが、それは彼らに忠実なファンが10回も20回も見に行くので問題はありません。

なお、単独主演復帰となったのがキム・ジウンの『ラストスタンド』。

これもまた興行的にはコケたのですが、ジャッカスのジョニー・ノックスビルとの共演というあまりにも巨大なリスクのわりにはなかなか手堅い作品にまとまっていたので、もっと多くの人に見てもらいたいと思ったところです。

 

そんなこんなでシュワルツェネッガーの経歴を眼鏡堂視点でざっとまとめたところですが、なんとも破格の人物。実際、本書『シュワルツェネッガー主義』はとにかく読めば読むほど面白いし、何よりシュワルツェネッガーの映画を見ることをライフワークとしているてらさわホークさんの筆致に気合が入っていて好い印象を受けるです。

なおかつ、高橋ヨシキさんによる実に肉密度の高いどうかしているカバーデザインも秀逸です。これを読むと、すかさずツタヤに行って『コマンドー』を借りてきたくなります。

最後になりますが、”凄い身体と凄い顔をして、おかしな英語を喋るこの男の何に我々は魅かれるのか?”という問いかけへの眼鏡堂の回答は「だって、それがシュワルツェネッガーだから」です。以上、終わり。

 

追記

2018年7/19に放送されたTBSラジオ『アフター6ジャンクション』内での、第1回アーノルド・シュワルツェネッガー総選挙。


【宇多丸】第1回! みんな大好き! アーノルド・シュワルツェネッガー総選挙! 2018年7月9日

 

*1:ちなみに、スタローンといえば伊藤ハム


伊藤ハムバイエルン シルベスター・スタローン 1988年

*2:TBSラジオ『アフター6ジャンクション』4月4月(水)「アーノルド・シュワルツェネッガーの最重要性とは」特集より

*3:70年の『イタリアン・スタリオン(イタリアの種馬)』。ちなみにその時のギャラは2万1千円。

*4:このあたりのストーリーは、ドキュメンタリー映画『鋼鉄の男/パンピングアイアン』に詳しい。

*5:監督は『ダイハード』のジョン・マクティアナン。彼はこの大失敗にショックを受け、田舎の邸宅に引っ込んで1年間誰とも口を利かなかったとか。ちなみに、彼もまたこの1作で浮上できないくらいにキャリアが急降下しました。