眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

アンチヴァイラル

アンチヴァイラル [初回生産・取扱店限定] [DVD]

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季節は秋。秋といえば、食欲の秋!

というわけで、食欲の秋にふさわしい映画で楽しもう!というのが今回の企画。

題して、”秋だ!モグモグ !人喰い映画祭り”!!

全三回でお送りしようというこの人喰い映画祭り。

第2回目の今回は、高級食材・高級嗜好品として人食いが登場する映画『アンチヴァイラル』です。

 

アンチヴァイラル』という聞きなれないタイトルを訳するなら、”抗ウィルス”。

このタイトルが象徴するように、本作において重要なキーワードとなるのがウィルス。

あらすじをざっと紹介すると……

著名人本人から採取された病気のウイルスが商品として取引され、それをマニアが購入しては体内に注射する近未来。注射技師シド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、持ち出した希少なウイルスを闇市場で売りさばきつつ、自身も究極の美女ハンナ(サラ・ガトン)のウイルスを投与していた。そんなある日、ハンナが謎の病気で急死したのを機に、異様な幻覚症状に襲われる。未知のウイルスの宿主でもあるからなのか、何者かに追われるようにもなったシド。休むことなく続く幻覚と追撃に疲弊する中、彼は自分を取り巻く陰謀の存在に気付く。

シネマトゥデイより引用)

 

人間には大なり小なり、「あこがれの人のようになりたい!」という願望があるもの。手近なところだと、そのあこがれの人と同じ髪型にしてみるとか。聖子ちゃんカット、とか、慎太郎刈りとかいうのが、まさにそれ。*1

んでもって、この作品の世界ではセレブへのあこがれが完全におかしなレベルにまで到達していて、セレブの感染したウィルスを自分にも感染させて同じ病気になってみたり、セレブの細胞から培養したお肉を食べてそのセレブと生物学的な交わりを持ってみたり、ということが趣味のひとつとして認識されています。

セレブのウィルスや細胞が売買されるという非常に奇妙な世界観のディストピアSFなのですが絵面も一癖あって、異常に神経質に配された左右対称構図だとか、白を基本にしたまるで漂白されたかのような近未来世界の表現とかが、見ていて何やらおさまりのつかない不安感をあおっていきます。

そんな世界で、顧客に対してセレブのウィルスを注射する注射技師のシドが本作の主人公。最初から最後までこの主人公がボロボロに弱っているのですが、その理由というのがセレブのウィルスを自身に注射して自分の体内で培養し闇で売買して利益を得る、という内にも外にも非常にリスキーなことをやっているから。

そうやって闇で売買されたものがどうなっているかというと、その細胞から培養された培養肉として販売されてファンの胃袋に入るという。

この培養肉というのが、古びた豆腐みたいな、白っぽい灰色のぶよぶよした塊で全くおいしそうに見えない(笑)*2。ただ、こういう食べ物としての人肉というのが、おそらく『ソイレント・グリーン』から着想を得ているのかも。

ともあれ、あるセレブのウィルスによってシドが陰謀に巻き込まれていくサスペンス展開なので、そこはぜひともそれぞれの目で見ていただきたいと思います。

 

特筆すべきは何といっても、培養肉という奇怪なガジェット。

劇中でもシドが「食人(カニバリズム)じゃないか」というのですが、それに対して返ってくる肉屋の言葉は「単なる筋組織さ」という軽いもの。たしかに、実際のセレブの肉体を解体して得た肉ではないし、単に細胞を培養して作ったものなのでセレブの人格を有しているわけでもないし……。でも、確実にそれはそのセレブの肉であることは違いないわけで……。

そのあたりの同化願望をセレブの培養肉という奇怪かつ不気味なガジェットで表現して見せるあたり、本作がデビューとは思えないただものじゃ無さを感じさせます。

最も深い愛情表現とは何か?と問われると答えは無数にあるわけですが、その一つの回答として「ひとつになること」があります。これは他者の肉体(の一部)が己の肉体(の一部)と同一化すること、です。物理的な意味として解釈するのなら。生物学的にもこういう現象はあって、例えばチョウチンアンコウは交尾によってオスがメスの肉体に取り込まれて最終的にはメスの肉体に一体化してしまいます。

そういった意味では、自分の体に他者の細胞なりウィルスなりを入れて自己の中に取り込むという行為は、最高の愛情表現といえる気もしてきますが、それでももやもやとする何かがあるのは事実。このもやもやというのが例えば食人が禁忌とされている理由、つまりは文化的理由(宗教的理由)であったり、社会的理由であるわけです。ちなみに作中ではあえて生命倫理の枠組みを取り払うことで物語としての自由さを得ています。

 

あと、何といっても衰弱していくシドの様子、というのが大きなキーワードの一つ。

それはつまり肉体と精神の変容であったり変質。このキーワードは、本作のメガホンをとったブランドン・クローネンバーグという才能を読み解くためのポイント。

クローネンバーグ、という姓からピンときた人もあるかと思いますが、彼の父親はあのデビッド・クローネンバーグ。父親もまた精神と肉体の変容なり変質について作品の中に盛り込むことで知られている人物です。実際問題として、この『アンチヴァイラル』のなかでシドが見る変質する肉体の悪夢は、まるでデビッドがメガホンをとった『ビデオドローム』を想起させます。

 

いずれにせよ、非常に奇怪で奇妙なSFサスペンス。

レンタルはツタヤ限定なので間口は狭いのですが、ぜひ秋の夜長に見てもらいたいものです。以上、おわり。

 

【追記 その1】

本作に登場する培養肉ですが、技術的には現在でも可能なレベル。

実際問題として、倫理的な側面などがあるにせよ、それさえ解決されればいつでもGOサインが出る模様。ジェームズ・フランコとかジェニファー・ローレンスとかカニエ・ウエストとかのサラミ肉を作るそうなので、「食ってみてえ!!」というひとはこのサイトからコンタクトをとってみればいいじゃない。

bitelabs.org

 

【追記 その2】

今回引用した作品群はコチラ。

ビデオドローム [DVD]

ビデオドローム [DVD]

 

*1:なんぼなんでも、例えが古すぎると反省。せめてベッカムカットぐらいにしとけばよかった。

*2:なお、味については言及されない模様。