眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

甲賀忍法帖/山田風太郎

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

奇才・山田風太郎による忍法帖シリーズの第1作目。

あらすじは、

愚鈍な次男にすべきか、聡明な三男にすべきか?

三代将軍の選定に苦悩する徳川家康が下したのは伊賀と甲賀の忍びを相戦わせ、最後に生き残った側によって決定するという奇想天外なものだった。

源平の昔より仇敵同士であった伊賀と甲賀。人知を超えた忍術による壮絶な戦いの火ぶたが切って落とされた……。

  

かつて、忍者小説ブームというものがありました。

代表的なものは、村上知義の『忍びの者』を筆頭に、池波正太郎の『真田太平記』、司馬遼太郎の『梟の城』や『風神の門』などなど。

そんな中にあって、非常に高い人気と異彩を放つのが山田風太郎の”忍法帖シリーズ”。

なかでもシリーズの基本を完全に作り上げてしまった傑作、それがこの『甲賀忍法帖』なのです。

 

で。

 

甲賀忍法帖』の具体的な内容に踏み込む前に、作者の山田風太郎忍法帖シリーズについて少々。

山田風太郎といえば、江戸川乱歩に見いだされた推理小説家として『達磨坂の殺人』でデビュー。このとき25歳。

その後しばらくは恩師である江戸川乱歩に従うように、奇想天外な推理小説を多数執筆。同時期に活躍した高木彬光、島田一男、香山滋大坪砂男とともに探偵小説界の戦後派五人男と呼ばれました。

その後、『水滸伝』を下敷きにした時代小説を執筆しようとするものの、108もの武術を考えることができず様々に模索した結果、武術を忍術に置き換えて誕生したのが、いわゆる”忍法帖シリーズ”です。

 

圧倒的な文章のスピード感と、奇想天外な忍法勝負。

まさにキング・オブ・大衆娯楽小説。

作者が医学部出身なので、医学的・生物学的な側面から本作の超人的な忍術の解説がなされるのですが……。

もう奇人変人のオンパレード。

吸血やウンドマーレー現象*1なんかは普通の部類。膠のような痰を吐く、手足を自在に伸縮させる、カメレオンのように皮膚の色を周囲と同化させる、のどから槍を吐く、体毛を自在に操る、ナメクジのように体が解ける男、そして極めつけは不死身。

誰がどの相手と戦うか、というのが決められているわけではないので、大駒と思われていたキャラクターが格下の相手にあっさり負けてしまったり、もちろんその逆があり、という手に汗握る展開。

ホント、どういう発想からこういうストーリーを紡ぎだせるのか、と。

今の視点で本作を読むと、連想されるのは少年ジャンプのバトル漫画。

NARUTO』や『Brich』、『幽遊白書』に『魁!!男塾』や『ドラゴンボール』。

はては『スラムダンク』もこの部類(バスケットボールを、5人一組の特殊技能を持った選手の集まり、と考えれば納得がいく)。

それを昭和50年代の時点で完成させていた、というところに山田風太郎の奇才たるゆえんが感じられます。

 

同時に、既に歴史的事実が定まったものをフィクションでどう覆していくか、というプロットの部分も、どれだけの作品に影響を与えたのか計り知れません。

徳川幕府の三代将軍が誰になったのか、というのは歴史的事実なので、変えようがありません。なので、竹千代についた伊賀が勝つという結末になるのは当然のこと。

にもかかわらず最後まで読ませるだけの魅力があるのは、忍者バトルものと合わせて、ロミオとジュリエットばりの恋愛要素、それも悲恋要素があるから。

伊賀と甲賀事態は百年の恨みつらみがありながら、その若き棟梁である朧と弦之介は相思相愛。そのうえ、二人の目指すところは宿怨を断ち切り、伊賀と甲賀を争いのない平和な集団に導くこと。

そんな二人が否応なく戦いに巻き込まれ、それどころか愛する相手を殺さなければならない局面に置かれてしまう。お互いに最強の忍術を封じながら(封じられながら)、どうしても相手に刃を向けることができずにいるうちに、愛する仲間がひとり、またひとりと死んでいく。

二人きりとなった最終戦で、はたして最愛の相手を殺せるのか?という場面にたどり着くわけですが、そこに至るまでの間に涙がボロボロですよ。

特にグッとくるのは、

(朧)

「争えぬどころか……私は……そなたらの術をやぶりかねない心になるかもしれぬ。それがわたしは恐ろしい。それゆえ……わたしは盲になりました」

「わたしを盲にさせておくれ。この世も、運命も、何もかも見えないように。……」

 

(弦之介)

「女のわたしには、朧は殺せませぬ。--弦之介さま、あなたが朧をお討ちなされますか?」

雨の音が、たかくなった。風が、樹々を鳴らした。

「討つ」

と、弦之介はうめいた。討てぬ、とはいえなかった。

 

そして二人を支える仲間たちも否応なく戦いに巻き込まれ、最愛の人を失っていく。

その最たるものが、如月左衛門。結果的に自分の判断ミスで最愛の妹が殺されてしまい、そこから血で血を洗う忍法合戦に突き進んでいくのですが、彼の心中を象徴するのが、

「女を殺しとうはないが……この念鬼の姿でおれの妹お胡夷も殺された。……蛍火、忍者の争いは修羅の地獄じゃと思え」

この戦い自体が、伊賀にとっても甲賀にとっても何の意味もない、徳川将軍家の跡目争いの代理戦争でしかないので一層悲劇性が高まります。

構成といい、ストーリー展開、キャラクターの個性、そのどれをとっても文句のつけようのない一級品のエンターテイメント。山田風太郎というと、司馬遼太郎信者からは「荒唐無稽の子供だまし」と鼻で笑われるのですが、広げた風呂敷をろくにたためない&長い割には単なる資料の丸写し、という司馬遼太郎作品より間違いなく楽しめます。

などという毒の一つも吐いたところで終わろうと思います。以上、おわり。

 

【追記 その1】

今回引用した作品群はコチラ。

 

忍びの者〈1〉序の巻 (岩波現代文庫)

忍びの者〈1〉序の巻 (岩波現代文庫)

 
真田太平記(一)天魔の夏 (新潮文庫)

真田太平記(一)天魔の夏 (新潮文庫)

 
梟の城 (新潮文庫)

梟の城 (新潮文庫)

 
DRAGON BALL(全42巻セット) (ジャンプコミックス)

DRAGON BALL(全42巻セット) (ジャンプコミックス)

 
SLAM DUNK(スラムダンク) 完全版 全24巻・全巻セット (ジャンプコミックスデラックス)
 

 

【追記 その2】

妖怪ヘヴィメタルバンド『陰陽座』。その名も『甲賀忍法帖』を3回ぐらい聞けば、小説『甲賀忍法帖』を1回読んだことにしてもいいくらいに、歌詞が小説のストーリーそのまんま。


「甲賀忍法帖」(MV)

 

【追記 その3】

漫画もアニメも抜群の出来なのでぜひ読んで&見てほしい。

バジリスク~甲賀忍法帖~ Blu-ray BOX(6枚組)

バジリスク~甲賀忍法帖~ Blu-ray BOX(6枚組)

 

 

だが、実写映画、キサマはダメだ!!


SHINOBI(予告)

*1:「古来、人間の皮膚に生ずるウンドマーレーと呼ぶ怪出血現象がある」の一文から説明されているけれど、実はこれ、山田風太郎の創作。まるで『魁!!男塾』の民明書房だ!