眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

INGRESSを一生遊ぶ!/岡安学

INGRESSを一生遊ぶ!

INGRESSを一生遊ぶ!

 

スマートフォンなどのGPS機能を使ったアプリゲームの攻略本。

はっきり言って、この本をいきなり読んでも全く面白くありません。むしろ2秒で飽きる。ともあれ、タイトルを読んでわかるとおり、INGRESS(イングレス)というアプリゲームの攻略本でございます。

 

そもそも、INGRESSとはなんじゃろな、っていうのはこれを熟読すればいいじゃない。ようするに、世界中をフィールドにしたリアル陣取りゲームなのですが、これが結構面白い。一部では、やせるアプリ、と言われてもいるようですが、街歩きの結果”リアル課金”と呼ばれる外食&購買頻度が高くなる、という諸刃の剣でもあります。

 

今更感はあるにせよ、このINGRESSというゲームは、ゲームの歴史にひとつの転換点をもたらしたのではないか?と思ったります。

一般的に(というか、古い世代ほど)、ゲームというと個人が部屋の中で楽しむもの、と考えられています。ネットゲームであっても、基本的に実際に人々が面と向かっているわけではなく、ネットを経由して間接的にコミュニケーションをとっているにすぎません。

なので、かつてはゲームで直接的にコミュニケーションをとる、というと、例えばゲームセンターでの対戦ゲームであるとか、友達の家に集まって一緒にゲームをする、とかいう程度のもの。どちらにせよ、ゲームセンターや誰かの家、という閉鎖的な空間から出るものではありませんでした。

それに対して、INGRESSはその大前提として外に出なければなりません。アプリをダウンロードして起動しても、家の中にいるだけではゲームを説明するチュートリアルさえ進められない始末。世界中すべてをフィールドにし、自分の足で歩いて、ゲームを進めていかなければなりません。この一点に限っても、ゲームの歴史をワンランク上に押し上げたのではないでしょうか?

 

また、実際に街を歩く、という行為と、ゲームそのものの持つヴィジュアルイメージとしての拡張現実とが相まって、普段何気なく見ていた光景が何か違ったものとして見えてくるという錯覚があります。確かにこれは錯覚には違いないのですが、それまでは見落としていた、小さな社であるとか神社、何かよくわからないモニュメントがポータルになっていた場合、それがどんないわれのものであるか説明が加えられている場合があります。それらを含めた小さな発見が、見慣れた風景を少し違ったものへと変化させていくと同時に、その地域への興味を醸成させる一つのきっかけにもなりえます。

実際に、このINGRESSをまちづくりや地域振興、観光振興に役立てようという試みもなさていていて、本書においては横須賀市の取り組みが紹介されています。

 

個人的に非常に興味深いのは、INGRESSを作ったナイアンティック社のCEO、ジョン・ハンケ氏のインタビュー。

寺山修司ではないけれど『書を捨てよ、街に出よう』よろしく、外に出て、INGRESSを通じてそれまでとは違った視点で街を見つつ、やはりINGRESSをツールにしてほかのプレイヤーとのコミュニケーションを持ってほしい。それによって得た刺激で自分自身を成長させてほしい。要約すると、そのようなメッセージが込められていると眼鏡堂は解釈しました。

個人的な注目は、やはりゲームを一つのコミュニケーションのツールとしたこと。INGRESSでは、ポータルの最高レベルであるL8にするためにはL8のレゾネイターが8本必要になるのですが、一つのポータルに対して刺すことのできるL8のレゾネイターは一本のみ。つまり、最高レベルのポータルにするには自分を含めた8人のプレイヤーが必要になります。

 普通だったら同時に8人のプレイヤーが必要になる、と考えがちですが、ジョン・ハンケ氏は違います。同時に、ではなく、いつかは、という非常に緩い縛りと、やはりこちらも非常に緩いほかのプレイヤーとのコミュニケーション(たまたまL8のレゾネイターが差せる状況にある見ず知らずのプレイヤーがいたりする、など)で十分、という考え方。

実際、ほかのプレイヤーがどういう風に行動しているのか?はゲーム中でこれまた非常に漠然とした形で知ることができ、ともすればリアルに接触することも可能です。

実際、ハングアウトやゲーム内のCOMM(掲示板みたいなもの)で呼びかけもあるし。

でも、そこで接触を持つか否かはあくまでプレイヤー次第。眼鏡堂もこういうリアルハック(現実にプレイヤー同士で接触すること)をされたことがありますが、たまたまその人がそうだったのでしょうが、お互いに個人情報を明かすこともなく、ゲームの攻略情報や、どの地域を攻略してほしいか、といった漠然とした情報をやり取りし、簡単な世間話をして終わりました。このコミュニケーションについてのハードルの低さが、眼鏡堂にとってはとてもありがたいと思っています。*1

 

ともあれ、弊害となる部分、コミュニケーションを飛び越えたストーカー行為や他のプレイヤーへの妨害行為、立ち入り禁止地域や私有地への侵入、歩きスマホの問題など、弊害として考えられる点については、本書の冒頭で固く宣言されています。

それを厳守し、節度をもって礼儀正しくプレイすることがエージェント(INGRESSプレイヤーのこと)のあるべき姿だ、と。これだけ『ポケモンGO』が幅を利かせ、眼鏡堂も数か月ほど浮気しましたが、やっぱりINGRESSがいいな、と思ったのはそういうマナー面での折り目の正しさがINGRESSにはあるから。錯覚かもしれませんが。同じく、これも錯覚かもしれませんが、INGRESSのほうが成熟した大人の娯楽のような気がします。

 

なにはともあれ、個人の娯楽からコミュニケーションのツールへ。

ゲームの世界に革命(とは言いすぎかも)をもたらした、INGRESS

その成り立ちや、それをつかった自治体の取り組みも読めるという意味で、単なる攻略本以上の意味があるような、ないような。ただ、惜しむらくはINGRESSの全盛期が2015年であり、いまでは良くも悪くも停滞期に入ってしまったという。

いずれにせよ、今日も今日とてエージェントはスマホ片手に街に繰り出すのです。駅と地蔵をつなぐ*2ために。以上、おわり。

*1:逆に『ポケモンGO』ではフレンド機能やポケモンの交換がタスクに盛り込まれることによって、INGRESSよりもハードルの高いコミュニケーションが必要とされています。ぼっちプレイヤー涙目ですが、ゲームはゲームではなくコミュニケーションツールである、というのがナイアンティックの社是みたいなものなので、いくらぼっちがわめこうが「だったらやめてもらって結構」と突っぱねられるのがオチ。

*2:ポータル同士をつなぐLINK行為の自嘲的表現。