眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

龍彦親王航海記 澁澤龍彦伝/礒崎純一

龍彦親王航海記:澁澤龍彦伝

龍彦親王航海記:澁澤龍彦伝

 

マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』の翻訳や、『黒魔術の手帖』 に代表される中世ヨーロッパの異端文化の紹介、又は『唐草物語』や『高丘親王航海記』等の小説で知られる、仏文学者で翻訳家、エッセイスト、小説家の澁澤龍彦の伝記。

本の帯によると、澁澤さんの伝記は本書が初とのこと。

ま、ほとんど伝記に近い評論は結構な数があるけど。

 

¥4,000という結構なお値段がするけれど、はっきり言わせてほしい。

この本は澁澤ビギナー向けの本だ、と。

 

例えば、『文豪ストレイドッグス』あたりで澁澤龍彦という人物(キャラクター)に興味を持って、何冊か文庫本を買いました。では、実際の澁澤さんってどんな人?というクエスチョンへのアンサーとしては、もう百点満点の本だと思う。

そのくらい、著者は正確性と整合性に力を入れているのが伝わってくる。

ただ、眼鏡堂のようなドラコマニアにすれば、その正確性と整合性がかえって邪魔になるという始末。だって、著者が引用してくる文章に対して「それ知ってる。ってかその本持ってる」という感想しか出てこず、前半引用されるさまざまな文章もすべてが既読のもの(入手済み)のものなので、特に新しい感覚に襲われることもない。

なによりこの著者にとって不幸なのは、澁澤さんの周辺の人たち、種村季弘出口裕弘巌谷國士金子國義四谷シモン矢川澄子、澁澤龍子、澁澤幸子といった人たちによって、それこそ手あかにまみれかねないほどに澁澤龍彦という人物の表と裏が語られつくしている感があるからだ。

ある意味でのベスト盤、と考えれば納得も行くけれど、それにしたところで、一生懸命出店をかき集めてみても、種村季弘さんの『澁澤さん家で午後五時にお茶を』の足元にも及ばないのは残念極まりない。

渋沢さん家で午後五時にお茶を (学研M文庫)

渋沢さん家で午後五時にお茶を (学研M文庫)

 

 確かに労作であることは認めるのだけれど、それが読んでいてなかなか面白くならない。「いつ面白くなるんだろう?」と読み進め、多少「お?」という感じで面白くなってきたりするんだけど、それも正確性と整合性の波にのまれてしまい、すぐに引用&引用の中に埋没してしまう。……出版社も澁澤さんと所縁の深い白水社だけに、入れた気合が空回りしている感も否めない。

 

といいつつも、最高の爆笑ポイントがあるので、そこは帳消しということで。

50代半ばを過ぎた澁澤さんが高校の同窓会で撮った記念写真は必見。

貫禄のついたオヤジさんたちの中に、珍獣が一匹混じっている写真はファンであればファンであるほど爆笑します。オススメです。

ただ、マニア向けにはコレクション用。初心者には澁澤さんの人となりをしる参考書としてそれなりの価値のある本であることは確かです。以上、おわり。