人気ケータイ小説家・Yoshiの原作を映画化。
田村正和が14年ぶりに映画主演を果たしたことで話題になった。
ニューヨークで活躍していたジャズサックスプレイヤーの田村正和だったが、妻の死を機にジャズマンを引退。娘とともに静かな生活を送っていたが、ひょんなことから伊藤美咲と出会い、大人の恋を深めていくが……というストーリー。
こんなことを言っても仕方がないが、あらすじからして新鮮味ゼロの紋切り型。
「100万回ぐらい聞いたよ、その話」と言わざるを得ない。
この時点でだいぶ嫌な予感がするのだが、実際に見始めるとその予感が現実になってくる(笑)。
冒頭、ジャズバーに向かうタクシー(?)の車内からニューヨークの町中を眺めるシーンがあるのだが、作り手側の「せっかくのニューヨークロケなんだから、街の風景を撮っておけ」という貧乏根性が垣間見える。
その貧乏根性だけでも十分にイエローカードなのだが、そのシーンの構図のこと如くが『タクシードライバー』冒頭の丸パクリ。……もうちょっと工夫とかなかったんだろうか?というか、根本的な問題としてこのタクシーのシーンは必要ないんじゃないか?などと思ってみたりする。別に、主人公や主人公の家族が乗ってるわけでもないし。
始まって5分も経っていないのに、こんな気の抜けた演出を目の当たりにすると「ああ、このラインの映画か……」と非常に暗澹たる気持ちになってくる。
が。
こんなのはまだまだ序の口だ(笑)
とにかくこの映画、ジャズ、ニューヨーク、団塊の世代、大人の恋、9.11などの社会的なテーマorオトナのオシャレなテーマを盛り込んだ、という割にはまったく地に足がついておらず、表面的で現実感がゼロ。
要するに、監督や脚本家にとどまらず、本作に関わったスタッフ全員がテーマを全く理解していないのだ。*1
雑っぷりは脚本に如実に表れており、本作の脚本を手がけた龍樹なる人物は名前はものものしいが、県庁と市役所の違いが分からないという驚くべき低能ぶりを見せてくれるので、本当に楽しい。
伊藤美咲がやっているようなことは基本的に市役所管轄の仕事であって県庁職員がやることではない。
というか、一職員としての彼女の立ち位置が全く分からず、見ているこっちは困惑する一方だ。
新人の現場研修的なものなのだろうと理解してたら、伊藤美咲には部下がいる(笑)。新人じゃねーのかよ!!何のために朝っぱらからツナギをきてゴミ回収をしてるのかまったく意味が分からず、ただただ呆気にとられる。
そのうえ田村正和の前でいきなりツナギを脱ぎだすというサービスカット驚愕のシーンが登場。「やったー。伊藤美咲の裸が拝めるぞ」ツナギの下から登場するのはビシッと決まったビジネススーツ。
……おめえ、それ着てさらにツナギかよ……。
愕然としました。
色んな意味で。チッ!
とにかく脚本が穴だらけなので、ストーリーがめちゃくちゃ。
雑な脚本、散漫な演出、そして内容のない原作。
出演した役者の皆さまはよく頑張った、と言いたいがそこにも文句があるぞ。
田村正和はじめ、役者陣の演技が総じて不必要に大仰でまったくナチュラルさがない。
特にヒロインの伊藤美咲のセリフ回しはなんというか学芸会レベルでこれだったらまだ棒読みの方がマシだなあ、と思わずにはいられない。
田村正和も『古畑任三郎』以降のイメージがすっかり固まっているので、ダンディなオトナの男性というより完全に古畑任三郎。しかも、芸人が物真似する古畑任三郎だ。
元々明瞭な滑舌でないとはいえ、本作での田村正和は終始モゴモゴしていて聞き取りづらく、妙に力む傾向にある伊藤美咲とのアンサンブルは非常に悪い。
映画全体の演出に関しても、紋切り型のストーリー展開&役者陣のアンサンブルの悪さと相まって、とても評価できるものではない。
タクシーからの夜のニューヨークの風景は完全に『タクシードライバー』だし、晩秋の公園の風景は『恋人たちの予感』。オフィス街の俯瞰ショットは『ダークナイト』と、オリジナリティのかけらもない丸パクリ。
「あ、ここあの映画のあのシーンとそっくりだ!!」という発見をすることで、このどうしょうもないゴミ映画も1周回って面白くなってきます。
まるで『ハリウッド・ブルーバード』だ!!
本作において一番の笑いのキモになるのは、なんといってもジャズ。
でも、お前ら絶対にジャズとか好きじゃねーだろ!!と言いたい。
細かいところだが、「アキラ(田村正和)、吹いてくれよ」とジャズマンがラッパを渡してくるのだが、ギターやベース、ピアノならまだしも、ちょっと前まで他人が咥えてたリードでラッパを吹こうという気になるかね?
ジャズを知らないのを通り越して、楽器弾いたことないだろ?とツッコみたくなる。
てっきり「オレは自分のラッパじゃないと吹けないんだ」といって断ると思ったのに、ホイホイステージに上がり出すし。
そしてちょこっとジャズっぽいなと思った次の瞬間に、なんかジャズじゃないピアノのBGMがかかってくるという……。
演出がちぐはぐすぎて逆に面白いわ!!
親しくなりたての伊藤美咲が、田村正和の娘への誕生プレゼントに子犬をプレゼントするという驚愕の展開は、本当に何も考えていないんだなあ、と思わざるを得ない。
犬飼っちゃいけない家だったり、アレルギーとかあったらどうすんだよ!!
ユンソナが放つ「最後はラスベガスのステージに立つのよ!!」という台詞も最高だ。
ニューヨークでツアーをスタートするのなら、最後はニューヨークのステージじゃないんだろうか?最初と最後は同じ場所でという意味ではなく、単純にニューヨークがジャズの聖地だからだ。
ラスベガスのショーステージにラッパもって上がるって、鳩でも出す気かよ!!
圧巻なのは田村正和が命を削ってステージに立つシーンだが、その渾身の力を込めたジャズが結構早い段階で別のBGMにクロスフェード(笑)
コラコラ、そこはジャズじゃなきゃいけねえシーンだろうが(笑)
あんだけジャズだジャズだと騒いでおきながら、主題歌はジャズではなく絢香っていうのも爆笑だ。
とまあ、こんな風に最初から最後まで雑で適当な映画。
大人の恋愛を描いた映画らしいのだが、オイラの頭が悪いせいか全くそれが伝わってきませんでした。
ただ、あまりにも雑なところが逆に面白く、みうらじゅん氏が語る「田村正和の持っているサックスをCGですべてコブラに変えるともっと面白くなる」を念頭に置いたせいか、ラッパのシーンが出るたびに爆笑しそうになります。
みうらじゅん、お勧めの映画は「ラストラブ」 - YouTube
ラストのスタッフロールで”ラストラブ・フィルムパートナーズ”というこの映画に出資したお馬鹿さんたちの名前がずらっと出てきて、非常に胸のすく思いがしました。
良かったですね。フィルムパートナーズの皆さん。
本作は07年の映画ですが、間違いなくフィルムパートナーズの皆さんはその07年における日本一のバカの称号を獲得です。
おめでとう!!
【追記】
本作の監督である藤田明二氏は本作を最後にフィルモグラフィーがない。
脚本の龍樹氏に至ってはこれが最初で最後の映画脚本。
まあ、自業自得ですな。
*1:たぶん、原作者も良く分かっていないに違いない。