眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

天守物語/泉鏡花

 

天守物語 (Pan-Exotica)

天守物語 (Pan-Exotica)

 

 文豪、泉鏡花の代表作。

姫路の城の天守閣に住まう妖怪、富姫と彼女と恋に落ちる図書之助の悲恋を描いた戯曲。作者である泉鏡花が初出時に「この戯曲を上演してもらえたら、こちらが費用を負担してもよい」と言うくらいに気合が入った作品です。

 

天守物語』と言えば、『滝の白糸』『夜叉ヶ池』と並ぶ新派の代表的な演目。花柳章太郎水谷八重子が妖艶かつ耽美に演じている映像を、CMとかポスターとかで見たことがあると思います。

あまりに追及された美的感覚のために、ぱっと見、「古臭い」とか「ノーサンキュー」とか感じてしまう人が多数なのか、せっかくの原作も読まれていない(というか、手にもとられない)雰囲気がビンビンです。

 

それはもったいない、と眼鏡堂は思うのです。

 

ちなみに、眼鏡堂は20代の頃、泉鏡花にはまり込んでいました。

どのくらいはまり込んでいたかというと、岩波や新潮社で集められる作品は全部持っていたし、鏡花の師匠である尾崎紅葉も繰り返し読んでいた始末。あの総ルビ&旧かなの方が村上春樹より読みやすいという悟りの境地に至ったのでした。

大学時代、自分の好きな本を紹介&発表するというグループ討論で尾崎紅葉の『金色夜叉』について熱弁をふるったなあ……(遠い目)。

担当教授に「キミみたいな学生を初めて見たよ。いやぁ、面白い学生だね」って言われたなあ……(遠い目)

 

それはさておき。

岩波文庫でも本作は出版されているのですが、こっちの方がとっつきやすいと思います。なぜかというと、『天守物語』は戯曲なので、セリフとト書きで書いてあるわけですが、全部自分で想像しろ、というのはなかなかハードルが高い。

でも、こっちの河出書房の単行本だと要所要所に山本タカトさんの挿絵があることによって、そのハードルがぐっと下がってきます。

あわせて、単行本としては結構な厚さがあるのですが、本編はだいたい1/3くらい。残りは英訳と解説、そして宇野亜喜良さんのイメージボード(これが素晴らしい!)。なのでいざ読みだすと、思いのほかあっさり読み終わります。

 

んで、肝心の内容はというと……

ドタバタラブコメです!(断言)

ツンデレな富姫と子犬みたいな年下彼氏の図書之助との急転直下のドタバタラブコメ具合が、”新劇”という重苦しいレッテルからはまったく想像できない展開になってくるのが改めて読むと衝撃的です。

なにはないでも富姫さんのツンデレっぷりと、図書之助の天然っぷりが非常に際立っているとともに、朱の盆を含めた脇役たちの個性豊かさもわくわくします。

書かれたのが明治時代なのでドタバタラブコメとかツンデレとかの概念は存在しなかったわけですが、それが一周回って新鮮で面白いのですよ!併せて、作中に『夜叉ヶ池』への言及が出てきたりして、鏡花ファンにはたまりません。

 

鏡花作品にしては、文章が格段に読みやすい部類に入るので古典文学に苦手意識がある人への初級編としてオススメできるかも。

何はともあれ、河出書房の気合の入り方が尋常でないので挿絵やイラストをパラパラ眺めるだけでも楽しいです。

久しぶりに泉鏡花熱が再発しそう。