眼鏡堂書店

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美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道/春日太一

美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道

美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道

 

女優、岩下志麻さんの女優生活60周年を記念したインタビュー集。岩下さんの女優歴と併せて、監督たちとの様々な逸話や役作りのアプローチについて語られます。聞き手は、著者である日本映画研究家の春日太一さん。

 

眼鏡堂にとって岩下志麻さんといえば、なんといっても『極道の妻たち』。

なので抱くイメージは”怖い人”。

実際、著者の春日太一さんにとってもその印象は同じだったらしく、本書の基礎となるインタビューを行うまで、結構ドキドキだったとのこと。

そういう印象が眼鏡堂の中に強かっただけに、デビュー時からの岩下さんの軌跡を目の当たりにするにしたがって、意外なエピソードの数々にどんどんと引き込まれていくのでした。

岩下志麻さんは1941年生まれ。なので今年(※2018年現在)で76歳。

同じ41年生まれには、萩本欽一さん、橋爪功さん、石坂浩二さん、三田佳子さん、渡哲也さんなどがいます。

そんな岩下さんのデビューは18歳の時。

当時、女優王国と言われた松竹*1からデビューします。

それがコチラ。

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極道の妻たち』のイメージしかなかっただけに、まあデビュー時の岩下さんの可愛いこと可愛いこと。実際、この当時の岩下さんの売り出し方は正統派お嬢様女優であり、箱入りのお姫様女優。後年のイメージからは想像もできない、超のつく清純派女優としてプッシュされたのでした。……何がすごいって、今だったらそういう”あざとい”売り出し方をされているにも関わらず、強烈なまでの説得力があること。

 

とはいえ、そこは女優王国と言われた松竹。

デビュー作が巨匠・木下恵介の『笛吹川』だったり、その次がこれまた巨匠の小津安二郎秋刀魚の味』だったりするという、新人女優とは思えない扱われ方をします。

そんな破格のデビューを経て、女優道に開眼した岩下さん。

様々な試行錯誤を経て徹底した役作りのアプローチを完成させていきます。

役に入り込む、ということになるのですが、いわゆるハリウッド的なメソッド演技法ではなく、あくまでも台本を主体として衣装であったりメイクであったりという表層的なところから内面に向かって役に入り込む、という方法論をとっていきます。

個人的に思ったのですが、メソッド演技法の弱点である、

即興性が強いため、表現技術のメリハリに欠け、不明瞭になりがち。

リサーチやリアリティを重視するあまり、役者の持つ表現力や想像力を阻害することがある。

などをうまくカバーする結果になっていると思います。

とはいえ、メソッド演技法にあるような役柄と役者の内面とを完全に一体化させるわけではないので、演技のベースはあくまでも台本。なので岩下さん自身も「アドリブは苦手(というかできない)」。

なので、アドリブをバンバン飛ばしてくる相手との共演はなかなかに厳しかったそう。例えば、桃井かおりさんであるとか、勝新太郎さんであるとか。ただ、そんな共演者に対して特に文句を言うわけではなく、「私は不器用だから、アドリブがあんなにバンバン出てくるのってすごいわぁ」とのほほんと言いながら見事に受けて見せるのは逆にすごいと思います。

 

そんな女優としての岩下志麻が語られるとともに、もうひとつの柱になっているのは、”女として、妻として、母としての岩下志麻”。

この当時、女優は結婚したら引退するというのが常識。

そんな中で、お年頃になった岩下さんのもとに、松竹の重役や筆頭株主であった横井秀樹らが日参し、「結婚しないでくれ」「誰かの所有物になるのではなく、国民全員の岩下志麻でいてほしい」と頭を下げてきたそう。

この当時の価値観が古いとはいえ「結婚したら引退して家庭に入る」というのが常識。実際に引退した女優は数多いし、それでも女優を続けるという選択肢を選んだ人の中には、例えば黒柳徹子さんであるとか梶芽衣子さんのように独身を貫く結果になった方もいます。

そんな中で岩下さんが出した結論は「結婚してもなお主演女優を続けていく」。

こうして67年に篠田正弘監督と結婚し、以後、妻として母として、そして篠田監督の松竹独立後は彼の主演女優としてタッグを組み、現在へと至ります。

 

単純な女優生活のインタビューだけでなく、女性の社会進出やキャリアアップのひとつの見本、あるいはモデルケースとしても読める本です。読後、”怖い人”としてしか認識してなかった岩下志麻さんが、ものすごくキュートに見えてきます。

岩下さんというとコレ‼というイメージが固まっている人ほど、ぜひぜひ手に取ってほしいと思いました。以上、おわり。

 

*1:当時所属していた女優陣は、原節子田中絹代高峰秀子岸恵子岡田茉莉子有馬稲子、嵯峨三智子、高千穂ひづる、久我美子という錚々たる面々。