眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

大相撲殺人事件/小森健太朗

大相撲殺人事件 (文春文庫)

大相撲殺人事件 (文春文庫)

 

江戸川乱歩賞史上最年少の16歳で最終選考に残った著者、小森健太郎さんによる本格ミステリ小説。

 

正直、この作品の面白さを伝えることができるかどうか、眼鏡堂は不安なのです。

……のっけからですが。

というわけで、まずはあらすじをご紹介しようと思います。

まず初めに言っておきますが、これからご紹介するのは文庫本の裏側に書いてある文章です。眼鏡堂、一切盛っておりません。一字一句、原文ママでお送りします。

それでは、あらすじです。

ひょんなことから相撲部屋に入門したアメリカ青年マークは、将来有望な力士としてデビュー。しかし、彼を待っていたのは角界に吹き荒れる殺戮の嵐だった!立ち合いの瞬間、爆死する力士、頭のない前頭、密室状態の土俵で殺された行司……本格ミステリと相撲、その伝統と格式が奇跡的に融合した伝説の奇書。解説・奥泉光

何のことやらさっぱりわかりません。

何のことやらさっぱりわからないのですが、読んでみるとわかります。

立ち合いの瞬間爆死する(結果的にですが)し、頭のない前頭も出てくるし、(ちょっと苦しいけれども)密室状態の土俵で行司は殺されるし、確かに書いてあることに間違いはありません。にわかには信じがたいことかもしれませんが、本書のあらすじに書かれていることは、物語内で実際に起こります。一字一句そのままで一切盛っていません。

眼鏡堂はミステリというジャンルの熱心な読者でもなければ、優れた読者でもありません。前者と後者の両方に関わることなのですが、眼鏡堂は頭が残念&ポンコツなので、物語を読み解きながら犯人を捜すためにトリックを解き明かしていく、ということができません。物語に没入してしまうので立ち位置は探偵というよりも観客。

そういうわけで、この『大相撲殺人事件』という小説が、ミステリとしてどの程度の高みにあるのか、また、本格ミステリとしての格がどの程度のものなのか、ということはわかりません。

ただ、呆然とするようなトンデモぶりなのは間違いないです。

 

そのジャンルを解体して再構築する、という意味でポストモダンという手法なりジャンル(?)があるのですが、この『大相撲殺人事件』は本格ミステリを再構築するという意味でポストモダン本格ミステリなのだ、と眼鏡堂は思うことにしました。

 

現実的な粗を捜す気になればいくらでも探せる、というのが優秀ならざる読み手である眼鏡堂が本格ミステリに対して常々思うこと。

殺人のための殺人、トリックのためのトリック、という全体と要素が逆転してしまっている、というのが正直な印象。もっとも、それは本格ミステリの最高傑作とでもいうべき『黒死館殺人事件』がまさにそういう小説だし、そんな逆転現象を一種のジョークとして展開する『虚無への供物』。頂点に位置するような作品群がそういった類なので、それに続く笠井潔であるとか綾辻行人であるとかの作品にはどうも食指が伸びないのです。かといって、もっと人間の内面を掘り下げたミステリはもっと嫌で、例えば松本清張東野圭吾らの作品はさらに手に取りたくない、というワガママ極まりない読者なのです。

 

そういうわけでかなり久しぶりに”本格ミステリ”なる冠のかぶせられるものを読んだわけですが、何度も書いているように優秀な読者ではないので、本書のどのあたりが本格ミステリに相当するのか?ということはさっぱりわからず、かといってトリック崩しは相も変わらず全くできず、ただただ力士が惨殺されていく様を呆然と読み終えたのでした。

正直、地の文は上手いとは決して思えず、本格ミステリと相撲の融合、という珍奇な視点以外特にみるべきものはないのですが、逆に、その唯一無二の視点こそが本書における最大の、かつ他に類を見ない特色なのは万人の認めるところだろうと確信します。

最年少での乱歩賞最終候補者&東京大学文学部哲学科卒の経歴を持つ著者による、最初のセリフが、

「ジャパン……ビューティフル」

という強烈な膝カックンなのが、いっそすがすがしい領域。解説を担当した奥泉光大先生の失笑が目に浮かぶようです。本格ミステリというよりももはや蘇部健一さんの『六枚のとんかつ』と肩を並べる”バカミス”の極致なのではなかろうかと思いました。

とりあえず、眼鏡堂書店は小森健太朗さんの『大相撲殺人事件』を応援しています。以上、おわり。

 

【追記】

今回引用した作品群はコチラ。

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 
新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

 
六枚のとんかつ (講談社文庫)

六枚のとんかつ (講談社文庫)