眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

天国にいちばん近い島/森村桂

天国にいちばん近い島 (角川文庫)

天国にいちばん近い島 (角川文庫)

 

著者の森村桂さんが体験したニューカレドニア滞在記を著したエッセイ。 

ニューカレドニア行きに至る顛末や、地元の日本人や原住民たちとの触れ合いなどをみずみずしい感覚でとらえた作品で、84年には監督・大林宣彦、主演・原田知世で映画化され話題になりました。

 

眼鏡堂はタイムリーな世代ではないので当然のように後追いなわけですが、情報としてこの作品とこの著者がそれこそ一世を風靡したことは知っています。

時代的なバイアスはあるにせよ、あくまで個人的な感想なのですが、正直読んでいて心がざわっと来る瞬間が何度もありました。それが端的にどういうことかというと、あまり気分の良いものではなく、逆に危険で不用心で不快な感情を行間から感じ取ってしまうのです。

それについては、おいおい説明することにして……、まずは作品の概要から。

 

出版社に勤める私(森村桂)は、今は亡き父(作家の豊田三郎)から聞かされた言葉「花が咲き乱れ果実がたわわに実る夢の島、神様にいつでも逢える島。働かなくてもいいし、猛獣や虫もいない…そんな天国にいちばん近い島が地球の遥か南にある」を思い描き、ニューカレドニアを目指して旅立つ。海外旅行がそれほど一般的ではなかった60年代の苦労や、思い描いていた夢の島と現実のニューカレドニアとのギャップ、現地の人たちとの交流を通して、都会の暮らしの中で見失っていた自分自身を取り戻していく、という話。

 

最初のくだり、つまり都会の仕事に疲れて自分を見失っていた(いる)私が、自分自身を取り戻すために父の言葉にあった”天国にいちばん近い島ニューカレドニアへ旅立とうとする、という部分。

その時点から強烈に意識させる別作品が、先ごろお亡くなりになった高畑功監督の『おもひでぽろぽろ』。本作の核になっているのは、眼鏡堂の感じたところでは”現実逃避としての自分探し”にしか思えませんでした。

おもひでぽろぽろ』が(一面において)そうであるように、彼女が求める自然あふれる天国にいちばん近い島としてのニューカレドニアは、『おもひでぽろぽろ』でいうところの”ファッション田舎”。

彼女が求めているのは、のどかで牧歌的な生活があって人々がやさしく迎えてくれて、ゆっくりとした時間の中でリラックスしてすごせて、でも、文明生活の中で享受してきたもの(たとえば清潔な衣食住であるとか)はちゃんと完備されている、。そんなニューカレドニアです。

 

当然ながら、現実のニューカレドニアはそんな風に漂白されていません。

フランスによって植民地化されて以降、原住民は文明化されて社会的ヒエラルキーの最下層である労働層に組み込まれました。そもそも、彼らの生活サイクルと、文明社会における生活サイクルとが合致しないからこそ、本書で森村さんが感じた「ぼんやりしていてだらしない」という印象につながったのではないかと思います。

繰り返しになりますが、読んでいて心がざわっとするのは、私(作者である森村さん)の非文明人に対する卑下や差別的な視点が、無自覚的・無意識的な領域にあること。

このニューカレドニアの原住民が文明化されて時間がたっているからこそ、彼らもそういう視点を向けられてもことさらに反応しないのかもしれませんが、これってだいぶ危険な気がします。本書が出版された当時は特に問題にならなかったのかもしれませんが、ポリティカリー・コレクトがどうのこうのというよりも、例えば『食人族』や『グリーン・インフェルノ』、『セデック・バレ』を経た我々としては、そういう無邪気な差別意識がどういう結果を招くことになるかを知っているからこそ、心がぞわっとするのです。

加えて、ホームステイ先の家で好意に預かったにも関わらず、慣れてくるにつれ我が物顔になるところとか、彼女の自己中心的な性格が眼鏡堂としてはどうにも共感できず、頭では美談だとわかっていても心情としては受け入れがたいものがあります。

 

大林宣彦監督による映画版は、その辺がきちんと無害化・漂白化されているらしいのですが、その反面、ロケ地のニューカレドニアは当時独立運動の真っただ中でそういった政治情勢が作中に反映されていない、ということでだいぶ批判されたようです。

それは本作にも言えることで、今現在の社会的な感覚からすると、どうにもこの本は無邪気すぎるように思えてなりません。

ただ、そういった無邪気さが本作の魅力でもあるので、痛し痒しという……。

まったくもって『おもひでぽろぽろ』。

特にオチはありません。以上、おわり。

 

追記1】

とりあえず、映画版の主題歌を上げてみる。


原田知世 / 天国にいちばん近い島 (映画シーン挿入編) - YouTube

 

追記2】

今回引用した作品群はコチラ。

天国にいちばん近い島 ブルーレイ [Blu-ray]

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おもひでぽろぽろ [DVD]