眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

スコーレNo.4/宮下奈都

スコーレNo.4 (光文社文庫)

スコーレNo.4 (光文社文庫)

 

羊と鋼の森』で本屋大賞を受賞した著者による、主人公・津川麻子の成長を描き、彼女が自分のいちばん大切なものに気づいていく、というストーリー。

 

最近ちょくちょく参加している読書会で猛プッシュされていたので。「どんなもんじゃろか?」と興味本位で読んでみたのでした。おそらく、というか間違いなく、読書会での紹介がなかったら絶対に手に取らなかったタイプの作品。

そういう意味では、読書会の本論である”人と本との交流による化学反応”が起こったようです。大事なことなのでもう一度書きますが、紹介されなかったら絶対に手に取ることもなかった作品です。……世の中、変わるもんだなあ(遠い目)

 

作品の軸となるのは、主人公・麻子が、中学、高校、大学、就職を通しての成長譚。

ページをめくりながらまず真っ先に眼鏡堂が感じたのは、本作がビルドゥングスロマンであるということ。いきなり聞きなれない言葉ですが、これは日本語に直すと”教養小説”となります。”教養小説”という冠だと、なにやら含蓄にあふれた有難迷惑な有難い教訓めいた小説、という風にしか思えないのですが、眼鏡堂的にはこの翻訳で損をしているように思います。ビルドゥングスロマンとはどういう類の小説家というと、主人公が様々な体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説。そのはしりとなるのは、ゲーテの『ヴィルヘルムマイスターの修業時代』です。

”主人公が様々な体験を通して内面的に成長していく過程を描いた小説”、まさに本作『スコーレNo.4』はドンピシャ。思春期の少女から、20歳の成人を経て、新社会人としての就職……。それらの節目とともに、麻子は成功と挫折を繰り返しながら内面的に成長していきます。そのストーリーを目で追いながら、眼鏡堂が感じるのは、一人の女性の成長過程の中で提示される様々な問い。人生とは何か? 幸せとは何か? 家族とは何か? そのいずれも、着地点としての答えはあっても、それが明確な回答とは言えず、人によってその答えは千差万別。言ってしまえばそれは答えのない問いでもあるのです。

よく、「読書は他人の人生の追体験である」と言われますが、ある意味でこの小説もそういった他人の人生の追体験としての読書作品と思いました。

 

ちなみに、タイトルにある”スコーレ”とはキュティオンのゼノンによるストア派の学究集団のこと。なお、ストア派の求めるところは、知者(道徳的・知的に完全な人)は破壊的衝動に悩まされることはないとし、当然のこととして現実を受け入れることを理想としています。また、この際の、知者はあらゆる不幸に動じない、という態度は”ストア的静寂”と評されます。

あわせて、スコア派の求めるコスモポリタニズムの求めるところは、兄弟愛を持って互いに躊躇なく助け合うべきである、というもの。とはいえ、現実にそういった境地に至るのは兄弟とは言えども人間と人間である以上難しく、関係が近くなったり遠くなったり、という変遷が本作では描かれるのですが、しかし、それが日常の中にありふれたものであるからこそ、非常にリアリティを感じたところでした。

ただ、この小説では3姉妹なのですが、これがもし3兄弟だったらどうなんだろう?と思うところもあります。果たして、この小説と同じ構造が成り立つのだろうか?と。仮に間に男兄弟が入るだけで、実はガラガラと崩れてしまうような危うさが感じられるのですが、それはたぶん眼鏡堂の杞憂であって、『スコーレNo.4』が持っている欠点ではないでしょう。というか、そういう点を問題として挙げること自体が完全に見当外れだと思いなおしました。

 

現実に根差した物語であり、文章も非常に洗練されているし、考えさせられるテーマの深みもある。それは間違いないし、現実としてたくさんの人に高く評価されるのも当然である、と眼鏡堂は思うのです。

その一方で眼鏡堂自身にのみあてはまる明確なことがただ一つ。

とにかく、眼鏡堂の心を全く震わせないのです。

それはこの小説が悪いのではなく、このような現実と地続きにあって、なおかつ主人公の内面を丁寧に掘り下げる、という小説が眼鏡堂の好みでは全くない、というただそれだけのことにすぎません。

ただその一方で、この作品が優れているということを否定するものではありません。

それはなぜだろうと色々考えたのですが、この本が禁欲主義のストア派なのに対して、眼鏡堂は快楽主義のエピクロス派だからだと結論付けたのでした。良くも悪くもこの小説、眼鏡堂が神の如く崇める澁澤龍彦作品とまったく逆にあるんだもの。以上、おわり。

 

追記 その1】

今回引用した作品群はコチラ。

ヴィルヘルム・マイスター 上巻
 

 

追記 その2】

んでもって、今作で追及された真理とは何か?を眼鏡堂なりに導き出した結果は「何でもないようなことが、幸せだったと思う」


THE 虎舞竜「ロード」PV