眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

悪夢の骨牌/中井英夫

新装版 とらんぷ譚 (2) 悪夢の骨牌 (講談社文庫)

新装版 とらんぷ譚 (2) 悪夢の骨牌 (講談社文庫)

 

『虚無への供物』を代表作とする作家、中井英夫による連絡短編集『とらんぷ譚』4部作の2作目。

ゴシック風の豪奢な洋館に招かれた10人の出席者と、サロンの女主人とその令嬢とが織りなす失踪事件の裏側で、夢とも現実ともつかない不思議な物語が展開していく反推理小説(アンチミステリ)です。

 

あらすじを書こうと思っていろいろと頭をひねってみたのですが、結局、本の裏に書いてあるものをそのまま、という形に。

この本、内容をざっくり一言でご紹介、っていうのが難しい。

ひとつひとつのセンテンスの中で解き明かされるなぞというのが、次のセンテンスでは簡単に否定されてみたり、かとおもえばそのセンテンスそのものが現実世界で展開されているものなのか、夢の中での出来事なのか、それとも虚構として作られたものなのか、はたまた単なる狂人の妄想なのか、なかなか判別がつきません。

現在の時間軸上にいる登場人物が、その時間軸上に絶対存在するはずのない人物と会話してみたり、なんてことが普通にあるしねえ……。

にもかかわらず、構成が完ぺきなために破綻はないし、なにより読んでいる間中の多幸感がハンパない( *´艸`)

 

令嬢・柚香(ゆのか)の天使のような風貌の裏にある無邪気な悪魔っぷり。美しさと愛らしさの裏側にある凶悪すぎるまでに無邪気な残酷さ、そのキャラクターの立ち具合といったらもう!

しかも、本人にその残酷さの自覚が全くないところが余計に怖い。

個人的に推理小説というのはあまり好きではなくて、その理由は、いわゆるトリック崩しが苦手なこと。

読んでいるとどうしてもトリックの矛盾点を探偵のように探していくのではなく、例えるなら観客のように完全な第三者の視点で読んでしまうので、華麗な名推理が展開されても「そうか、そこがトリックだったのか!」ではなく「すごいですね」の一言しか出てこないありさまなのです。

なので、眼鏡堂はトリックに凝った推理小説というのは全く食指が動かないし、かといってお涙頂戴ミステリのよう「”幼いころに受けた虐待のトラウマが今回の殺人事件のウンヌンカンヌン」みたいなものにも全く興味なし。

大体、理由がないと人を殺してはいけない、ということそのものが完全な思考停止だと思うのですよ(問題発言)

 

そういった意味では本作は、トリックや動機に重きが置かれていない推理小説なので、眼鏡堂のようなボンクラ読者でも十二分に楽しめたのでした。

なにより、自分のような観客的な視点の読者にとってたまらないのは、その文体。

徹底して磨き抜かれた、ため息が出るほどに美しい文章が一部の隙もなく積み上げられていて、改めて読み返すとその美しさと満足感でもって頭がクラクラしてきます。

 

とらんぷ譚』4部作の構成として、

  1. 幻想博物館(短編集)
  2. 悪夢の骨牌(連作短編集)
  3. 人外境通信(短編集)
  4. 真珠母の匣(連作短編集)

となっているのですが、どれから読んでも問題ないし、なによりどれを読んでもハズレなし!

少し前だと、この『とらんぷ譚』は創元社推理文庫の中井英夫全集に編まれていましたが、それが全般になってしまい、なおかつ中井英夫作品は古書業界で非常に人気のあることもあってなかなか手に入りません。

さっくり手に入るのは新装版が上下巻で発売された『虚無への供物』なのですが、それを読んで「もっと読みたい!」と思った読者が次に手を出せるものがなかったのですが、ありがたいことにこの『とらんぷ譚』もまた新装版が分冊で発売されたという。

えらいぞ!講談社

 

というわけで、秋といえば読書の秋。

一冊一冊は薄めなので、秋の夜長を『とらんぷ譚』を読んで、美しすぎる幻想世界に心奪われてみてはいかがでしょうか。以上、おわり。

 

【追記】

できるなら、講談社にはもうひとガンバリしてもらって『月蝕領崩壊』をぜひ新装版で復刊してもらいたい。