眼鏡堂書店

積み上げられた未読本の消化と、ホラー映画100本ノックを目指すブログ。不定期更新のゆるゆるです。

光のアダム/中井英夫

光のアダム (1978年)

光のアダム (1978年)

 

『虚無への供物』で知られる中井英夫の長編小説。

軽井沢と思しき避暑地を舞台に、密室からの人体消失と世良家にかかわる奇妙な宿縁とを描いたミステリ小説。

 

とらんぷ譚』といい『虚無への供物』然り、 ストレートなミステリにはなっていないのが中井英夫作品の中井英夫作品たるところ。

『虚無への供物』には多少なりとも残っていた若々しさ(青臭さ)が、この小説には皆無。むしろ、非常にオトナな小説。

”小説は天帝への捧げもの、一字一句おろそかにしてはならない”と筆者の矜持にあるように、とにかく文章が美しい!ため息モノです。

 

確かに、ミステリはミステリなのですが、一般的なミステリにありがちな「不可能と思われる状況下で被害者はどうやって殺されたのか?」や、「犯行の動機は何か?」というような一般的な価値観とは全く無縁。

というか、これは中井英夫のミステリ作品の多くに当てはまるのですが、”事件そのものが本当に存在するのか?”というアンチミステリに仕上がっています。

ミステリの鉄板をぐるりとひっくり返してみせる、というのがアンチミステリなわけですが、そこが本作を楽しめるかどうかの試金石のうちのひとつ。

そして試金石の二つ目が、作中で論じられる神秘学や神秘哲学を受け入れられるか(さらっと流せるか)どうか。

この二つ目の試金石がつるべ打ちのように綴られるので、苦手な人はここで大混乱しそう。……ま、そこが中井英夫のアンチミステリの愉悦なんですけどね。

 

もっといろいろ書きたいのですが、書けば書くほど訳が分からなくなりそうなので、この辺で。最後に声を大にして言いたいことが一つだけ。

これだけの傑作であり良作(装丁も抜群に瀟洒で素晴らしい)なのにもかかわらず、なんと絶版!そのうえ文庫もナッシング!

ということで、読みたくなった人は古本屋で買ってください。

 

劇中のホームパーティーで供される料理やワインの凝りっぷりが素晴らしい。

凝りに凝ってるわけではないけど、和洋を取り混ぜた簡単なコース料理をパッと作れる男になりたいと思いました。以上、おわり。